エタノール消毒液のいろいろ

2020年6月27日

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ここでは、エタノール消毒液全般について説明しています。有効なエタノール濃度にはじまり、手指消毒液の作り方、ジェルの作り方、最近のエタノール事情、消毒に必要な量、消毒液による手荒れについて 等。

まずは無水エタノールを原料に自家製の手指消毒液をつくってみることにしました。

手指消毒液をつくるにあたって、ウイルスに有効なエタノール濃度はどれくらいなのか?について考えてみたいと思います。

手指消毒液として有効なエタノール濃度

WHOのガイドラインの中では

60〜80%のアルコールを含むアルコール溶液は、通常、有効な殺菌活性があるとされ、90%を超える濃度では効果が弱くなります。(P29)

エタノール濃度が75%~85%で最も消毒効果が高く、80%濃度を推奨しています。(P29)

70%~80%のエタノールは、ロタウイルス、アデノウイルス、A型肝炎ウイルス、エンテロウイルスなどのノンエンベロープウイルスにも活性を示しています。(P31)

World Health Organization(WHO),WHO Guidelines on hand hygiene in health care: a summary: http://whqlibdoc.who.int/hq/2009/WHO_IER_PSP_2009.07_eng.pdf

消毒に使用するエタノールの至適濃度範囲は、

日本薬局方で、76.9~81.4 v/v%

米国薬局方(USP-NF)で、68.5~71.5 v/v%

と定められています。

一部、エンベロープを有するインフルエンザウイルス、ヒトヘルペスウイルスなどに対して、45%濃度以上のエタノールで有効であったという報告もあります。

また、2020年4月17日付けの北里大学のプレスリリースで、エタノール希釈液の新型コロナウイルスの不活化効果に関する試験結果も公表されています。

水道水で濃度を調整した 10%、30%、50%、70%、90%のエタノールの不活化効果。
接触時間:1 分
不活化効果あり:50%、70%、90%エタノール
不活化効果なし:10%、30%エタノール
接触時間:10 分
不活化効果あり:50%、70%、90%エタノール
不活化効果なし:10%、30%エタノール
(参照元サイト:https://research-er.jp/articles/view/88171)

これをみると、50%でもいいかなとも思いますが、接触時間も1分必要となっており十分な量を用いて正しく消毒しないと効果が期待できない可能性もあります。

やはり日本薬局方の至適濃度範囲やWHOの推奨濃度を考えると、ベストな選択は、

80%濃度のエタノール

という結論になります。

エタノール消毒液 ~ 組成 ~

配合はこちらのような感じで

Rp   全量500mL
エタノール(99%)    415 mL
10%塩化ベンザルコニウム  10 mL
グリセリン         10 mL
尿素            5 g
精製水          適量

組成は、「病院薬局製剤」の内容を参考に作成しています。

様々な施設で利用している「速乾性アルコールローション」の組成が6~7種類掲載されています。

外用剤専用のメートルグラスとビーカーをつかって秤量しながらつくってみました。エタノールに10%塩化ベンザルコニウム、グリセリン、尿素、精製水を加えよく攪拌します。
添加された塩化ベンザルコニウムは、界面活性剤としての作用もあるため、若干洗浄効果も期待できるほか、消毒効果を持続させる効果もあります。

グリセリンと尿素はこの量必要か?

この組成、自分でつくってみてなんですが結構保湿効果が高いです。消毒効果を出すのに必要な量(3mL:容器押し切りでこの量)を使用するとすこしべたつきが気になるかもしれません。

手指消毒に必要な時間とエタノール量は?

次つくるときはこの半分の量で作成してみてその結果も追記しておきたいと思います。医療従事者のように消毒頻度が高い場合にはこの割合の方が有効だと思います。

調製した83%の手指消毒液は、グリセリンの保湿効果を噴霧後すぐに感じるほどしっとりと仕上がりました。

アルコール消毒液の海外事情

(学生のころのような実験の感覚を思い出しつつ)アルコール消毒液を調製していて、現在のような非常時には、これこそ薬剤師が取り組むべき仕事ではないだろうか?と感じました。
「薬局製剤」を用いれば、83%のエタノール消毒液の調製ができることになっていますが、局方品の無水エタノールを用いなければならず、販売するほどの原料の入手が困難となっています。

”フランス”では、薬剤師会の要請や政府の協力もあり、3月6日付の省令薬局薬剤師は、自分で精製した消毒用アルコール・ジェルを販売しても良い事になりました。(公定価格3ユーロ/100ml)

96%エタノール  833.3 mL
過酸化水素3%溶液(オキシドール)41.7 mL
グリセリン  14.5 mL
精製水量   適量
全量  1000.0 mL

”FDA( Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局)”も3月14日付でFDAが示す製造方法に従う限り、消費者向けに手指消毒剤を製造する特定の施設または免許を持つ専門家に対して一定の期間、法執行措置を取らないと発表しました。

日本においても、フランス、アメリカのように、薬局における製造、販売の規制緩和が実施され、かつ原料を薬局に安定供給していただければ市中および医療機関における消毒薬不足が徐々に解消されていくのではないかと考えています。

アルコール消毒液の国内事情

この記事を最初に書いたころには、海外に比べて日本の消毒薬に関する出遅れが大きかったですが、最近徐々に規制が緩和されつつあります(令和2年4月時点)。

①令和2年2月28日 事務連絡(厚生労働省)
施設訪問者や職員への使用目的で消毒用エタノールを他の容器へ詰め替え、使用させることは差し支えない。
※この時点では容器の詰め替え可というまだ消毒薬不足を楽観視している印象があります。

②令和2年3月23日 事務連絡(厚生労働省)
手指消毒用エタノールの供給が不足していることから、医療機関等において、やむを得ない場合に限り、高濃度エタノール製品を手指消毒用エタノールの代替品として用いることは差し支えないこと。
※高濃度のものをうすめてつかってもいいですよという変更です。

③令和2年4月8日 事務連絡(厚生労働省)
医療機関等(病院、診療所、医師会、歯科医師会、薬剤師会もしくは地方自治体)特定アルコール(高濃度アルコール)の無償配布を行い、その機関において希釈を行い高齢者施設等に供給することが可能に
※18L一斗缶で供給され、95vol%を70~83vol%に希釈して使用する。
→これが都道府県薬剤師会レベルまで伝わり検討されるまで約1週間かかり、そこから各医療機関に要・不要のアンケートが配られるわけですから、実際にものが届き提供できるのは、2週間~3週間後という。
※ちなみに、この段階では、消費者への提供はできない状態です。

④令和2年4月10日 事務連絡(厚生労働省)
酒税法(昭和 28 年法律第6号)に規定する酒類製造者又は酒類販売業者
のいずれかから購入し、当該製品がエタノール濃度原則 70~83vol%の範囲内であること、含有成分に、メタノールが含まれないものであることを確認したうえで使用する。
高濃度のお酒も消毒用アルコールとして認めるというもの
国内酒造メーカーが先行して高濃度アルコールを製造したため国が動いたものと考えられる。(少し後手後手ですが)
※ちなみに、この段階でも、消費者への提供はできない状態です。

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⑤令和2年4月22日 事務連絡(厚生労働省)
エタノール濃度が原則 70~83vol%の範囲内であること(消毒効果が十分に得られるよう、より高濃度のものは精製水等で同範囲に薄めて使用すること。なお、新型コロナウイルスに対して、60vol%台のエタノールによる
消毒でも一定の有効性があると考えられる報告等があることを踏まえ、
70vol%以上のエタノールが入手困難な場合には、手指消毒用として、60%
台のエタノールを使用しても差し支えないこと。
)。
※60vol%台のエタノールを手指消毒用として認めるというもの
ここには接触時間についての記載はないので、適切な量、適切な時間で消毒しないともしかしたら効果はないかもしれませんね。

令和2年6月17日やっと薬剤師会からの特定アルコール18L缶が届きました。医療機関、介護施設、教育機関、保育施設に提供するために70~83%濃度で調整してお渡しすることになります。

 消毒液の多様性

消毒液が出来上がって、ふとまわりを見渡してみると、霧状に噴霧される消毒液の容器もあれば、ジェル状に押し出される容器もあることに気づきました。

ここで疑問! ジェル状にするにはこれに何を加えるといいんだろうか?

ネットで情報を調べていくと【キサンタンガム】というワードが。

なんだか、~ガムって薬でも聞いたことがあるようなー、ないようなーと思って調べていたら、点眼液の一部で【ジェランガム】という添加剤を用いているものがあるのを思い出した。

『ウィキペディア(Wikipedia)』より
◇ キサンタンガム
多糖類の一つで、水と混合すると粘性が出ることから、増粘剤、増粘安定剤として幅広い用途で用いられている。化粧品や食品への添加剤(増粘多糖類)として使用されているため、人体への安全性も高い。
◇ ジェランガム
水溶性の多糖類で、一部の点眼剤(目薬)の添加物、培地のゲル化剤、食品添加物など、様々な用途で用いられている。
構造式中にカルボキシ基(-COOH)をもっていることから、水溶性となっている。ここにナトリウムイオンやカルシウムイオンなど正電荷を持ったイオンが加わると、電気的に中和されてしまうため、ゲランガムの水溶性は低下してゲル化する。この性質を利用したのが点眼液であり、涙液中のNaイオンと反応したときにはじめてゲル化するようになっている。
製品例)チモプトールXE点眼液0.25%
リズモンTG点眼液0.5%
オフロキサシンゲル化点眼液0.3%「わかもと」

話をもとに戻しますが、ゲル化するには【キサンタンガム】が必要ということはわかりました。では、どのくらいの容量(mL)にどれくらいの量(g)を入れるのが適量なのか?

どれくらいの量(g)を入れるのが適量なのか?

いくつかのアルコールジェル作成のサイトをみてみると、〇〇杯というように、記載量があいまいなものが多く判断に迷いました。

いくつか配合割合を

3.5g / 500mL
小さじ1/5杯 / 50mL
ミクロスパーテルで15杯 / 20mL など様々です

また、キサンタンガムは水溶性の多糖類なので、アルコールには溶けずアルコール濃度を上げすぎるとうまく混ざりにくいということも読み進めていくとわかってきました。
購入後で「しまった!」という思いはありましたが、とりあえずキサンタンガムで限界粘度に挑戦してみたいと思います。

。。。。。。。

その後挑戦してみました。83%のエタノールに対して、7gのキサンタンガムを入れたところ、大半が沈殿しました(苦笑) 上澄みをとってみても多少とろみがついている程度でほぼ水っぽく失敗です。

アルコール消毒液の濃度を変えてキサンタンガムで再度チャレンジ

キサンタンガムを活用したく違う組成で挑戦しました。CDCのホームページの中では、手指消毒用アルコールに関しては、エタノール濃度60%以上にするとの記載があるため、そのぎりぎりのライン63%の消毒ジェルをつくってみることにしました。

組成
99.5%エタノール 315mL
グリセリン    5mL
精製水   加えて全量500mL
キサンタンガム ミクロスパーテル4~5杯

キサンタンガムは、今回水に溶いてからエタノールと混合しました。グリセリンの量もべたつきが気になったので減らしています。

キサンタンガムはこの量でも水になかなか溶けませんでしたが、見事にきれいなエタノールジェルが完成しました。乾燥するまで30秒くらいかかりますが、乾燥したあとはさっぱりとしていますが、しっとり保湿もされているという感じで良いものができています。

WHOのガイドラインで推奨されている80%濃度のエタノールジェルも作成してみましたが、キサンタンガム(ミクロスパーテル4~5杯)を先に100mLの精製水に溶かしてから400mLの無水エタノールに加えるとうまくジェル状のものが完成しました!先に水に溶かすというところがやはりポイントですね。

次なる手段、「ヒドロキシプロピルセルロース」

次の方法として、【ヒドロキシプロピルセルロース】を用いているジェル製品が多かったのでこれを用いて行ってみようと思います。試薬としてですがありまして、25g2000円前後と高そうですが試してみる価値はあるかもしれません。

これもまたどれくらいの量を入れたらいいのか?全然ネットをみていても出てきません。まずは、1gずつ加えていくことにしました。

最終的に500mLの83%エタノールに対して10g入れたところで、水っぽくはありますが、手に取ると ” ジェル感 ” が感じられるようになりました。

10gを超えないとジェル感が出てこないので、コストパフォーマンスを考えると今一つですが、アルコールジェルの作成には成功です!

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