認知症の新たな貼付薬「アリドネパッチ(ドネペジル)」の使いどころ
今回新たに2022年11月25日に開催された「薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会」において、アルツハイマー型認知症(AD:Alzheimer’s disease)治療薬「アリドネパッチ27.5mg・55mg」(一般名=ドネペジル)の製造販売承認申請が了承されました。
(申請を行ったのは帝国製薬ですが、国内では興和が独占的販売権を取得しています)
インタビューフォームや審査報告書が公開されていたので、追記していきます。
更新日:2023年2月5日
はじめに
認知症の中核症状(記憶障害、理解力低下、言語障害など)に用いられる薬剤は大きく分けて2つあります。
1.コリンエステラーゼ阻害薬(以下、ChEI) ドネペジル〔内服〕、ガランタミン〔内服〕、リバスチグミン〔貼付剤〕 ※特徴的な副作用:消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢)~高用量で発現頻度が高い2.NMDA受容体拮抗薬 メマンチン〔内服〕 ※特徴的な副作用:傾眠、めまい、便秘、頭痛 |
ChEI3剤の働きに若干の違いはありますが、効果に明らかな差はないとも言われています。
しかし、以下のような特徴を活かして使い分けをされることもあります。
★ドネペジル、リバスチグミンはやや賦活傾向となり、ガランタミン、メマンチンは静穏傾向になる性質を利用して使い分けされることがあります。
◆ドネペジルには、OD錠の他にドライシロップや内用液、ゼリー剤といった選択肢の幅の広さがあります。
●消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢など)で内服が難しい、そもそも内服が難しい患者にはリバスチグミンの貼付剤が選択肢となります。
アリドネパッチ(ドネペジル)の特徴
経口剤で用いられている「塩酸塩」は経皮吸収性とテープ基剤への溶解性が劣ることから、塩酸塩の活性本体である「ドネペジル」を有効成分とする経皮吸収型製剤となっています。
効能効果
アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制(軽度、中等度、高度)
用法用量
日本¹⁾
1日1回27.5mg(塩酸塩5mg投与に相当)を貼付する。高度のアルツハイマー型認知症患者にはドネペジルとして、27.5mgで4週間以上経過後、55mg(塩酸塩10mg投与に相当)に増量する。
なお、症状により1日1回27.5mgに減量できる。
本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付し、24時間毎に貼り替える。
貼付部位別のPKパラメータ比較
背部、上腕部、胸部いずれにおいても違いは認められませんでしたので、どの部位でも貼付可能となっています。
貼付部位 | 評価時期 | AUC (ng・h/mL) |
薬物放出能 (%) |
背部 | 1日目 17日目 |
11.35±9.69 251.02±82.24 |
25.2±6.5 |
上腕部 | 1日目 17日目 |
9.84±10.00 238.68±94.43 |
24.1±6.3 |
胸部 | 1日目 17日目 |
10.29±12.20 249.68±107.01 |
22.7±6.5 |
血中濃度上昇が緩やかであるため、経口剤と異なり3mgからの漸増で用いる必要がないことも利点の一つとして挙げられていますが、臨床試験の結果では0~4週までの「下痢」「悪心」といった有害事象は経口剤に比べてパッチ剤で多く認められていたことからも、投与初期の消化器症状には注意が必要と考えられます。
海外の添付文書
米国での販売名:ADLARITY
週1回貼付。推奨開始用量は 5 mg/日。4~6週間後、1日10mgまで増量可能。
〔内服から貼付剤への切り替え〕
経口ドネペジル1日量5 mg → 週 1 回の 5 mg/日 ADLARITY
5mg の経口ドネペジル塩酸塩を少なくとも 4 ~ 6 週間服用している、もしくは1日量10mgの場合 → 週 1 回の 10 mg/日 ADLARITY
※冷蔵庫から取り出してから24時間以内に使用
※推奨貼付部位=背中(背骨をさける)ほか、臀部上部または太腿上部
※貼付部位の温度上昇(入浴、カイロ、発熱など)を避ける
#アリドネパッチは「室温保存」になっていました。また、無包装状態での安定性も高そうだったので、間違って開封した場合でも元の包装のまま開封口を折り曲げて保管しておいて使用できそうですね。
※開封後のデータ
25℃、90%RHにおいて、遮光、密閉し保管したところ1か月間規格内であった。但し、製剤の粘着性については検討されていないため不明(製薬企業データ)。
アリドネパッチ(ドネペジル)の使いどころ
ChEIで同じパッチ剤である「リバスチグミンパッチ(テープ)」では貼付部位の皮膚障害が問題とされてきました。
以前リバスチグミンテープで発赤が強く出た患者さんがおり、とくりん薬局のホームページにあるジェネリック医薬品比較資料²⁾を参考に添加剤の異なるジェネリック医薬品をいくつか試しましたが、発赤の改善が認められませんでした。
こういった患者さんでは、内服への切り替え(※)という選択肢も検討されてしまいますが、終末期の患者さんなど徐々に内服が困難となる方もいますので、貼付剤で継続したいというケースもあります。
(※)内服への切り替えでは、『ドネペジル』もしくは『ガランタミン』への切り替えですが、切り替え方法を検討したデータはないため、 ガランタミンでは前投与薬を中止後、1日8mg(1回4mgを1日2回)から投与を開始 、ドネペジルでは前投与薬を中止後、1日3mg(1回3mgを1日1回、7日間)から投与を開始となってしまいます。 (リバスチグミン半減期:3.3時間)
そんな折、リバスチグミンの皮膚障害に対してステロイド・保湿剤併用療法の有効性について検討した報告³⁾をみつけ実行したところ皮膚の発赤がほとんどなくなったという事例も経験しました。この方法もすごく良いですが、他の貼付剤へ切り替えることで皮膚障害が軽減されるのであればそちらの方が簡便であり望ましい方法かと思います。参考までに以下に、貼付剤でかぶれを生じる患者への対処法を記載しておきます。
【貼付剤でのかぶれ対処法】
①リバスチグミンパッチ貼付前にリンデロンローションを塗布
②30秒~1分待って完全に乾いてからその上にパッチを貼付
③パッチを剥がして濡れタオル(ウェットティッシュも可)で糊をふき取る
③剥離後の部位にリンデロンローションを塗布
今回、主成分ドネペジルのアリドネパッチが発売されたことでその選択の幅は拡がっています。更に、皮膚障害の有害事象が少ないといったメリットがあれば、それが「アリドネパッチ」の使いどころではないでしょうか。
アリドネパッチ(ドネペジル)の有害事象
第Ⅲ相臨床試験において、錠剤に対する貼付剤の非劣性を評価するために試験が実施されていますが、その中で有害事象についての記載があります⁴⁾。
掻痒10 例(5.13%)、紅斑4 例(2.05%)が発生しました。 |
この試験でのドネペジルパッチの投与間隔は週2回と貼付時間が長いのにも関わらず、重篤な皮膚障害は認められず、ほとんどの症例で投与継続が可能であったとされています。
既存のリバスチグミンのパッチ剤の皮膚関連の有害事象を見てみると以下のような記載があります。
接触性皮膚炎273例(25.4%)、掻痒393例(36.6%)、紅斑404例(37.7%) |
単純比較はできませんが、皮膚障害の軽減が期待されます。
貼付部位に関する注意事項
皮膚障害の軽減は期待されますが、注意事項は比較的多く記載されています。その中でも独断と偏見でより注意しておいた方がいいと思うものを抜粋してみます。
1.貼付部位を毎回変更し、同一部位への貼付は、7日以上の間隔をあける
2.剥がした後は、貼付部位への直射日光を3週間は避ける(光線過敏症のリスク)
3.貼付部位を外部熱(過度の直射日光、あんか、サウナ等のその他の熱源)に曝露させない:貼付部位の温度が上昇すると本剤からのドネペジルの吸収量が増加し、血中濃度が上昇するおそれがある。
4.ハサミ等で切って使用しないこと。
(切ると有効成分が漏れ出るなどの心配はないですが、粘着面が製品のまわりにしかないため粘着力に影響がでること、適正使用という関係で推奨されないこと等が理由として挙げられるようです)
特に光線過敏症は、「重要な潜在的リスク」にも含まれているように市販後も特に注意喚起を行っていく必要がある事項かと思います。
さいごに
リバスチグミンテープ(パッチ)で皮膚障害が生じた場合の代替薬としてだけでなく、嚥下困難、服薬拒否といった患者に対しても使用可能な薬剤となっています。患者さんの状態に応じた適切な薬剤選択の一助になるのではないかと思います。
【参考資料】
1)興和株式会社,アリドネパッチ,インタビューフォーム
2)とくりん薬局「 ジェネリック医薬品比較資料 > 69.リバスチグミンテープ」http://okinawa-youth.jp/generic_drug/generic_drug_data-69/(12月6日,2022年)
3)緒方孝行,他.リバスチグミンパッチの皮膚障害に対して 薬局薬剤師が処方提案し奏功した 1 例.薬局薬学,11:158-164,2019
4)Han HJ, Park MY, Park KW, Park KH, Choi SH, Kim HJ, Yang DW, Ebenezer EGAM, Yang YH, Kewalram GM, Han SH; on Behalf the IPI-301 Study. A Multinational, Multicenter, Randomized, Double-Blind, Active Comparator, Phase III Clinical Trial to Evaluate the Efficacy and Safety of Donepezil Transdermal Patch in Patients With Alzheimer’s Disease. J Clin Neurol. 2022 Jul;18(4):428-436. doi: 10.3988/jcn.2022.18.4.428. PMID: 35796268; PMCID: PMC926