ACE阻害薬とARBの併用はいいのか?

2020年4月7日

スポンサーリンク

ある日脳神経外科の処方で

Rp1 バルサルタン錠80mg 1錠
1日1回 朝食後
Rp2 シルニジピン錠10mg 1錠
1日1回 朝食後

この処方に、「血圧が下がらないと手術ができない」という理由で、

Rp3 イミダプリル錠5mg 1錠
1日1回 朝食後

が追加となってきた。

ひと昔前はたまに見かけた処方だったが、久しぶりにこの処方をみて、「これって良かったんだっけ?」って思いました。
そもそも他に、カルシウム拮抗薬(CCB)の増量または変更やARB増量、利用薬追加、α遮断薬(αーb)追加、β遮断薬(βーb)追加など手段はいくつか残されている段階で、ACE阻害薬併用に踏み切ったのはなぜなのか?

ACE阻害薬とARBの併用はいいのか?

まず現在のバルサルタン錠の添付文書上では、

【併用注意】アンジオテンシン変換酵素阻害剤
<臨床症状・措置方法>
腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧を起こすおそれがあるため、腎機能、血清カリウム値及び血圧を十分に観察すること
<機序・危険因子>
併用によりレニンーアンジオテンシン系阻害作用が増強される可能性がある。

と記載されており、併用する場合には注意が必要な薬剤となっています。

では、この添付文書にこの文言が追加されたのはいつなのか?

平成26年6月3日付厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知により注意事項が2014年6月ころに追記されています。

どういう経緯で”併用注意”に文言が追記されたのか?

Googleブラウザで「ACE阻害薬 ARB 併用」のキーワードを入れて検索してみると以下の画像のようなものがトップページに表示される。

画像1

画像2

これだけ見ても、併用はあまりよくないんじゃないか?という感じがします。

ページのトップに出てくる日本医事新報社の2014年10月の記事をみてみると

理論上は,ACE阻害薬とARBを併用してRA系をブロックすることで,単独療法に比べて高い効果が得られると考えられるが,心血管イベントの高リスク糖尿病患者を対象としたONTARGET試験では併用療法による上乗せ効果は認められず,重篤な有害事象が多かったとされている(文献1)。
文献1:Mann JF, et al:Lancet. 2008;372(9638):547-53. PMID: 18707986

VA NEPHRON-D試験でも,両者の併用は高カリウム血症や急性腎不全のリスク上昇をもたらしたため,試験は予定より大幅に短縮され打ち切られた。そこまでの解析においても,両者の併用にリスクを上回る臨床的優位性は認められなかった(文献2)。
文献2:Fried LF, et al:N Engl J Med. 2013;369(20): 1892-903. PMID: 24206457

と記載されている。

また、2015年12月のDI onlineに掲載された青島先生の「症例から学ぶ 薬剤師のためのEBM」の連載記事でもこれがとりあげられており、2013年のメタ解析の論文の説明を行いながら、最終的な結論として

「両剤の併用療法の有効性は明確に示されておらず、複数の研究で有害性が報告されていることから、現時点では他剤への代替えが想定できないケースを除き、併用注意であっても疑義照会を行った方がよいと考えている。」

と締めくくっています。

スポンサーリンク

メタ解析:Makani H, Bangalore S, Desouza KA.et.al.
Efficacy and safety of dual blockade of the renin-angiotensin system: meta-analysis of randomised trials. (おそらくこのメタ解析を基にして添付文書の改訂に至っていると思われる)

ここまでの流れをみると2015年の段階までは、メリットよりもデメリットが上回ることがあるため、ほかに手段がないときに考えましょうということになると思います。

2016年以降に何か状況が変わったのか?

それでは、添付文書改訂後に新たな文献報告が出て状況が変わったのか?

DI Onlineの連載のところで、青島先生が検索ワードとして用いていた
「Clinical Queries」検索ワード「renin-angiotensin system Combination」、category「therapy」、scope「narrow」で2016年以降の論文をPubmedで検索してみる。

画像3

結果、48件がヒット。ひとつずつアブストラクトをみていくと、ACE阻害薬とARBの併用でヒットしたのは1文献でした。

Saglimbene V, et al. J Am Soc Nephrol 2018 – Clinical Trial. PMID 30420421

画像4

ビジアブが全文リンクにありました。(Pubmedより)

中等度~重度のアルブミン尿を有する糖尿病患者(1243例)を対象として
・ACE阻害薬単独(413例)
・ARB単独(414例)
・ACE阻害薬+ARB(416例)
PROBE法で実施。
有効性:心血管死、心筋梗塞、脳卒中、および心血管性原因による入院の個々のエンドポイントのリスク、ESRD移行、クレアチニン倍加 ※有意差なし
安全性:重篤な有害事象、低血圧、高カリウム血症 ※有意差なし

今まではあきらかな有効性は認められず、リスクが増加という文献が多かったですが、これは有効性も安全性も両方有意差がなかったというものかと思います。

他の検索条件では透析患者や糖尿病患者を対象としたものがいくつかヒットしてきましたが、新たな知見を含んだものはないように感じました。

Combined blockade of renin-angiotensin-aldosterone system reduced all-cause but not cardiovascular mortality in dialysis patients: A mediation analysis and systematic review
Li SM, et al. Atherosclerosis 2018. PMID 29258005

Cardiovascular and Renal Outcomes of Renin-Angiotensin System Blockade in Adult Patients with Diabetes Mellitus: A Systematic Review with Network Meta-Analyses
Catalá-López F, et al. PLoS Med 2016 – Review. PMID 26954482 Free PMC article.

さいごに

これらの調べた情報を基に、添付文書変更となった経緯や元となっている文献情報などを記載して、医師へ「トレーシングレポート」を送付しました。

その後、当該患者さんが来局されましたが、

Rp.4 ビソプロロール錠2.5mg 1錠
1日1回朝食後

が追加となっていました。来局時で、収縮期血圧は150mmHgありまだ血圧を下げる必要はあったため追加となったという事です。

安全性に関するところ
低血圧、高Kのモニタリングで
血圧低下、ふらつきについて確認
腎機能障害のモニタリングで
尿量低下、むくみについて確認

し、問題ないとの返答は患者さんからもらいました。
血圧を下げるという目的のみでの併用と考えられるため、今後も継続して副作用モニタリングを続けていくしかない状態となっています。

スポンサーリンク