下痢止め(ロペラミド)の乱用の問題点

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「researcher」で日々更新されてくる文献をみている時に、こちらのような文献が目に入ってきました。

文献

ここで、ロペラミド乱用?過去に注意喚起もされているし「麻痺性イレウス」のことかな?と最初思いました。
「麻痺性イレウス」重篤副作用疾患別対応マニュアル

アブストラクトしか見れませんでしたが、以下のような内容が書かれていました。

アブストラクト

【導入部分】

多幸感を得るためにロペラミドを乱用する報告が増加しています。2019年9月食品医薬品局は、不適切な使用を減らすために製造業者のロペラミドのパッケージサイズの変更をサポートしました。
多幸感を得るための乱用……..か…….
TOMO@北の薬屋®
TOMO@北の薬屋®

ロペラミドで多幸感なんて得られたっけ?と思って得意のGoogle先生に聞いてみました。

「 ロペラミド 多幸感 」で検索

するとトップから2番目にこのケアネットの記事がでてきました。
この記事によると、2010年~2016年にかけてロペラミドの中毒量使用例が増加し、通常量(8mgまで)では多幸感は得られませんが、かなりの量(2mgの錠剤を50~100錠服用)を服用すると薬剤が血液脳関門を通過し高揚した状態になると書かれています。これらの中毒量使用例はオピオイド系薬の離脱症状に対する自己治療として使用している可能性が高いですが、不整脈を含む致死的心有害事象(QT延長・Torsades de Pointes・心室性不整脈・意識消失・心不全)が誘発され得るという警告の文章となっています。
(この記事が引用している文献:Lee, Vincent R., Ariel Vera, Andreia Alexander, Bruce Ruck, Lewis S. Nelson, Paul Wax, Sharan Campleman, Jeffrey Brent, and Diane P. Calello. 2019. “Loperamide Misuse to Avoid Opioid Withdrawal and to Achieve a Euphoric Effect: High Doses and High Risk.” Clinical Toxicology  57 (3): 175–80.)

 

(画像:https://www.imodium.com/anti-diarrhea-medicine/multi-symptom-relief-caplets

実際にロペラミドはこのように2mgのタブレット製剤ほか様々な剤形が販売されているため、その販売の制限が実際にきちんと行われているかを調べたものがこちらの文献になると思います。

ちなみに日本において、濫用のおそれがある医薬品としてその販売個数制限がかかっているものは以下のようなものがあります。

【濫用等のおそれのある医薬品】

以下に掲げるもの、その水和物及びそれらの塩類を有効成分として含有する製剤
1.エフェドリン
2.コデイン(鎮咳去痰薬に限る。)
3.ジヒドロコデイン(鎮咳去痰薬に限る。)
4.ブロムワレリル尿素
5.プソイドエフェドリン
6.メチルエフェドリン(鎮咳去痰薬のうち、内用液剤に限る。)

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ロペラミドは含まれていないですね。そして日本では1mgの製剤しか市販されていません(ロペラミドが市販されていたことさえもこの時まで知りませんでしたが。。。)

e健康ショップで検索すると、指定第2類医薬品としてヒットしてきます。

【目的】

市販薬のロペラミド乱用に関する薬剤師の知識を調査し、乱用が疑われる場合にロペラミドの販売数量を制限するために、どのような方法で行っているかを明らかにすることを目的として行っています。

【方法】

対象:米国の各州とコロンビア特別区の3薬局(n=153)
方法:電話調査の内容
1.過去のロペラミドの乱用に関する知識
2.乱用がどのように発生したかに関する知識
3.疑わしい販売を制限する能力
を評価する3つの質問の回答を収集しています。

【結果】

1.過去のロペラミドの乱用に関する知識
 75.2%(n = 115)の薬剤師がロペラミドが乱用されていることを認識していると回答しました。
2.乱用がどのように発生したかに関する知識
 24.8%(n = 38)が乱用がどのように発生したかを認識していました。
3.疑わしい販売を制限する能力
 30.7%(n = 47)が乱用が疑われる場合には購入量を減らしたり、販売を拒否したりすることができると感じていました。
カウンターの後ろに販売スペースを設けたり、購入の数量制限を設けたりしていた薬剤師は、3.2%(n = 5)のみでした。乱用を減らすための障害として、薬局以外での購入を規制できないことを挙げていた薬剤師は13.8%(n=20)いました。

ロペラミドの乱用について認識している薬剤師は多いものの、薬局でロペラミドの販売規制を行っているところは少なく、薬局以外での購入を防ぐための規制も存在しないため乱用を防ぐのは難しいのではないかという結論になっていると思います。

さいごに

ロペラミドは構造が麻薬に類似していて(フェンタニルと構造が類似している)、オピオイドμ受容体を介して止瀉作用を示すとされています。麻薬にも向精神薬にも指定されていない医薬品ですが、今回のように大量投与では呼吸抑制、不整脈といった中枢性の副作用もみられることがあるため注意が必要です。

また、大量投与でない場合(16mg)でもキニジン(P-糖タンパク質阻害)との併用により呼吸抑制がみられたという報告もあり、血中濃度依存的ではないものの脳内ロペラミド濃度の上昇が起こったためと考えられ、通常量であっても併用する薬剤によっては中枢性の副作用に注意が必要となります。

Sadeque AJ, Wandel C, He H, Shah S, Wood AJ. Increased drug delivery to the brain by P-glycoprotein inhibition. Clin Pharmacol Ther. 2000;68(3):231-237. doi:10.1067/mcp.2000.109156

また、Pmdaのページで「ロペラミド」をサイト内検索すると、「使用中は運転等をしてはいけない一般用医薬品・要指導医薬品の例」の中に含まれてきているので、中枢系の作用として眠気という部分でも注意喚起が必要となります。
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