胃薬(PPI)による女性化乳房

2020年7月2日

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80代女性の方が薬局に来られた時に交わした会話です。

「整体に行ったときに、そこの先生と最近胸が張るんだっていう話をしてたんだわ。そしたら先生どんな薬飲んでるのって見て、この胃薬で胸が張ることあるからそのせいかもねーって。かかりつけの先生に話したらそんなの知らないって言われたんだけどね。」

この方が服用していた胃薬は、

Rp)ランソプラゾールOD錠15mg  1錠 / 1×朝食後 

この方の会話からは、【女性化乳房】というワードがすぐに頭に思い浮かびましたが、ここで2点疑問が・・・・

①女性なのに「女性化乳房」って起きるのか?

②PPIで女性化乳房の報告って多かったかな?

TOMO@北の薬屋®
TOMO@北の薬屋®

まずは簡単に女性化乳房について調べてみます。

女性化乳房

女性化乳房とは、エストロゲンの相対的過多により男性において乳腺組織が肥大する病態といわれています。多くが思春期あるいは老年期にみられる生理的な乳房腫大。

画像はWikipediaをご覧ください。

基本的には、男性で起きる女性化を女性化乳房と呼びそうなので、女性の女性化乳房はないだろうという検討はつきました。

原因としては、先天疾患、内分泌腫瘍、薬剤性、肝疾患、腎不全などいくつかあげられますが、今回は薬剤性についてみていきたいと思います。

副作用情報を探してみる

添付文書

まずそもそもプロトンポンプ阻害薬で「女性化乳房」の副作用があるのか?

ランソプラゾールOD錠の添付文書をみてみると、

0.1%未満ですが、記載がありました。

PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)

次にPMDAの副作用が疑われる症例報告リストで「女性化乳房」の副作用がある薬を症例数順にならべてみると以下のようになります。

医薬品 症例数 ROR 95%CI下限
1 スピロノラクトン 13 65.03 35.98
2 デュタステリド 6 102.35 44.43
3 ビカルタミド 5 40.64 16.43
4 アムロジピン 4 9.12 3.34
4 エファビレンツ 4 62.39 22.78
4 サニルブジン 4 76.3 27.84
4 プレガバリン 4 5.44 2
4 ラミブジン 4 27.57 10.09
9 カルバマゼピン 3 3.72 1.17
9 トリアゾラム 3 30.85 9.73
9 バルサルタン 3 6.97 2.2
9 ファモチジン 3 6.29 1.99
9 ロピナビル・リトナビル 3 50.75 15.98
14 アトルバスタチン 2 5.15 1.27
14 エプレレノン 2 32.08 7.87
14 シタグリプチンリン 2 6.26 1.54
14 シタラビン 2 485.63 114.39
14 ジゴキシン 2 23.84 5.85
14 スルピリド 2 8.7 2.14
14 テルミサルタン 2 10.45 2.57
14 トラセミド 2 55.53 13.59
14 トリヘキシフェニジル 2 42.03 10.3
14 ドネペジル 2 7.53 1.85
14 フィナステリド 2 52.8 12.93
14 ペモリン 2 716.9 165.48
14 ボリコナゾール 2 8.55 2.1
14 ランソプラゾール 2 3.49 0.86
14 リスペリドン 2 4.05 1
14 ロスバスタチン 2 8.55 2.1

PPIの中でもかろうじてランソプラゾールのみが含まれています。RORは3.49ですが、95%信頼区間は1をまたいでいるため、関連性があるかどうかははっきりしないといった感じになってしまっています。

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Google Scholor / J-Stage

日本語検索で『 プロトンポンプ阻害薬 女性化乳房 』と入力して検索しています。

検索上位の記事にそれらしい内容はみあたりません。

 

Pubmed検索

Pubmedで『 proton pump inhibitor gynecomastia 』
(プロトンポンプ阻害薬)(女性化乳房)

の2つのワードで検索すると 17件 ヒットしてきました。

比較的新しいものとしては、

フランスの自発報告データベース(FPVD)にある「薬剤誘発性女性化乳房」の副作用報告の内容を解析したもの(2008年1月1日から2015年12月31日まで)(1)がありました。

  1. Batteux B, Llopis B, Muller C, Khouri C, Moragny J, Liabeuf S, et al. The drugs that mostly frequently induce gynecomastia: A national case – noncase study. Therapie. 2020 May;75(3):225–38.

255,354件の副作用報告
(関連する女性化乳房症例の327件(0.31%)、非症例の106,800件)

検出された54の成分について、RORは統計的に有意でした。

最も関連性が強かったものは、抗レトロウイルス薬(23.5%)、利尿薬(15.5%)、プロトンポンプ阻害薬(11.9%)、HMG-CoA還元酵素阻害薬(9.1%)、神経弛緩薬および関連薬(6.5%)、カルシウム拮抗薬(6.3%)、および5α還元酵素阻害薬(4%)でした。

日本のPMDAでは、5α還元酵素阻害薬が上位にきていて、PPIは下位にいましたが、フランスでは逆転しています。

 

もう一つ

米国のPharMetrics Plus™健康保険請求データベースを用いて、2006年から2016年までのPPI新規処方患者およびアモキシシリン新規処方患者を対象として実施され、男性患者におけるPPIによる女性化乳房のリスクを定量化しています(2)

  1. He B, Carleton B, Etminan M. Risk of Gynecomastia with Users of Proton Pump Inhibitors. Pharmacotherapy. 2019 May;39(5):614–8.

ています。

アモキシシリンと比較したPPI使用の粗HR:1.70(95%信頼区間[CI]:1.461~1.976)

感度分析の調整HRは1.299(95%信頼区間[CI]:1.146~1.473)

調整HRは50歳以上の患者では1.4795(95%CI:1.2431~1.7609)、50歳以下の患者では1.324(95%CI:1.1133~1.5745)

PPIを使用した患者が女性化乳房を発症するリスクが高いことがわかります。

まとめ

薬剤誘発性の女性化乳房の国内での自発報告は少ないですが存在し、プロトンポンプ阻害薬以外にも多種多様な薬剤にその可能性があるため、症状発現時には十分な薬剤検索が必要になってくると考えられます。

海外においては日本国内よりも多くの症例が報告されていることから、薬の使用方法によっては女性化乳房発現の可能性が十分にあることを念頭において服薬支援を行っていく必要があります。

今回の患者さんについては、そもそも女性化乳房の対象とはならないと考えられるため、胸が張る症状が続くようであればその他の原因検索をしていきたいと考えています。

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