夜間頻尿の方が睡眠薬を服用したら漏らしてしまうのか?
トラゾドン(デジレル)とエスゾピクロン(ルネスタ)が新規で処方された方がいました。そのとき
「わたし夜中おしっこに行く回数が多いんですけど、睡眠薬飲んで起きれなくなったら漏らしたりしないですか?」
ちょっとよくわからなかったので調べてみようと思いました。
夜間頻尿の原因としては何があるか?
■多尿(夜間多尿:夜間の尿量が多いこと)
■膀胱容量の減少(過活動膀胱、前立腺炎、膀胱炎、前立腺肥大症で膀胱が過敏に)
■睡眠障害
大きくわけてこのように分類されると思います¹⁾。
多尿(夜間頻尿)
健康な成人の1日当たりの排尿回数は約4~6回(主に日中)で、1日当たりの排尿量は0.7L~3L程です。
夜間多尿は、夜間の尿量が1日総尿量の1/3以上になり、1回の排尿量は正常(150~200mL以上)である状態を指します。
加齢にともない脳下垂体からの抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)の分泌量が低下することで起こる場合もあり、また心不全や腎不全など心臓のポンプ・血流に関連する疾患があると、昼間水分の流れが悪くなり、夜間横になったときに尿量が増加するため起こることもあります。
その他単純に飲水量が過剰という場合もあるかもしれません。
膀胱容量の減少
少量の尿しか膀胱に貯められなくなるもので、過活動膀胱(尿が少量しか溜まっていないのに膀胱が勝手に収縮してしまう)や前立腺炎、膀胱炎、前立腺肥大症による排尿障害のために膀胱が過敏になるために起こりますが、膀胱の老化現象として起こる場合もあります。
睡眠障害
眠りが浅くてすぐ目が覚めてしまうために、目が覚めるごとに気になってトイレに行くものです。
エスゾピクロン、トラゾドンと夜間頻尿の関係は?
高齢者の中途覚醒による睡眠障害と夜間頻尿に注目し、睡眠薬が処方される例もあるようです。
夜間頻尿のある方が睡眠薬によりグッスリ寝てしまって起きられずに尿を漏らすというよりも、改善する方に働くということですね。
【トラゾドン】²⁾
対象と方法 : 夜問頻尿患者に塩酸トラゾドン (50mg~75mg)を投与
治療前後の夜間排尿回数、治療前後の 排尿 QOL ス コ ア を比較
結果 : n=13 平均年齢 72 ± 7.1歳(58− 82)
治療前排尿回数 4.5±1.2(3− 8) ⇒ 〔治療後〕 1.0±0.4(0−2)(p< 0.001)
排尿 QOL ス コ ア 5.2±0.6(4−6) ⇒ 〔治療後〕 2.1±0.6(1−3)(p< 0.001)
睡眠をきちんと構築することで夜間頻尿の改善が得られています。
エスゾピクロンも夜間頻尿に対する臨床試験が実施されている(夜間頻尿を伴う睡眠障害に対するエスゾピクロンの有効性および安全性の検討)ようですが、結果を探せませんでした。
■鎮静薬(オキサゼパム、ゾピクロン、トラゾドン)、鎮痛剤(ナプロキセン、オキシコドン)の夜間頻尿の改善効果をプラセボを対象として評価した試験がありました³⁾。
結論として夜間頻尿を軽減した薬物はナプロキセンとオキサゼパムの2つだけとなっています。
Nocturia:夜間頻尿、Nocturia-free nights:夜間頻尿なしの夜
ナプロキセン(ナイキサン)は尿量も減少させ、夜間頻尿回数も減少させていますが、腎臓への直接的な作用によるものと考えられています。NSAIDsによるプロスタグランジン(PG)産生抑制→腎血管収縮による腎血流量減少+ヘンレループでのナトリウム再吸収増加+抗利尿ホルモン作用亢進→尿量減少は最近ではよく知られており、ロキソプロフェンNa⁴⁾⁵⁾などがよく話題として登場します。
オキサゼパムは夜間頻尿を改善していますが、尿量自体や尿組成に変化はないため、中枢神経系を介したまたは、膀胱弛緩作用を介した膀胱への刺激の緩和によるものが考えられています。
この中では残念ながら、ゾピクロン、トラゾドンの効果を示すものとはなっていませんが、尿量を減少させたり、睡眠スコアを改善する効果は多少ありそうな結果となっています(有意差はついてませんが)。
睡眠と抗利尿ホルモン
一般的に尿量は夜少なく、昼多く、血中ADH(抗利尿ホルモン)値 は夜高く、昼低いサーカディアン・リズムを示すと言われています。そのため通常であれば睡眠状態にあるときには抗利尿ホルモンが働くため、尿崩症や夜尿症といった疾患がなければ尿を漏らすことはないと考えられます。
その他
夜間頻尿については、日本排尿機能学会 / 日本泌尿器科学会により、夜間頻尿診療ガイドライン [第2版]が約10年ぶりに改訂されて発行されているようですが、現段階では学会員以外は閲覧することができません。
書籍では発売されているようなので、一度機会があれば内容を確認してみたいと思います。
夜間頻尿は高齢者では高い確率でみられる疾患ですので、今後も興味をもって調べていき患者さんの症状改善に少しでも役立てるようにしていきたいと思います。