薬によるむくみなのか?~ 腰椎圧迫骨折後からむくみが出現 ~
慢性疼痛で麻酔科受診中の方の薬が変更になったときの話です。
会話と処方の内容
👵:むくみが全然よくならないから、薬減らして様子見るって言ってました。圧迫骨折した後からずっとむくみが続いてるのよね。靴下跡も消えないし。
<前回>リリカOD錠75mg 3T/3× <今回>リリカOD錠75mg 2T/2×
併用薬:マイスリー錠5mg、ロキソニンテープ100mg、ビビアント錠20mg、ロキソプロフェンNa錠60mg、レバミピド錠100mg
こう考えました。
服薬スケジュール
併用薬の中でも関連性がありそうな薬剤、処方量変更があった薬剤について流れを記載してみます。
圧迫骨折が6月なので、そのあたりで明らかに追加、変更になっている薬は、リリカ®とトラムセット®あたりになるでしょうか?
トラムセット®は服用後すぐに動悸、吐き気、めまいで服薬中止となっているため、リリカ®が被疑薬としては一番あやしいということになります。
リリカ®(プレガバリン)
プレガバリンの副作用報告はどうなっているのか?
インタビューフォーム¹⁾の内容をみてみると、「浮腫」の副作用は適応症によって若干異なりますが、その頻度は、10.7~18.6%と高いことがわかります。
PMDA²⁾(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)への報告症例数をみても2番手に入ってきています。(25番手まで表示)
NSAIDSやカルシウム拮抗薬、チアゾリジン薬、ステロイド薬などそうそうたるメンバーを抑えての2番手です。
医薬品 | 症例数 | ROR | CI下限 |
イマチニブ | 108 | 12.17 | 9.97 |
プレガバリン | 85 | 7.81 | 6.26 |
スニチニブ | 41 | 5.7 | 4.17 |
ドセタキセル | 33 | 2.23 | 1.57 |
ジアゾキシド | 32 | 85.67 | 58.66 |
ピオグリタゾン | 32 | 8.12 | 5.7 |
ロキソプロフェンナトリウム | 27 | 1.82 | 1.25 |
アムロジピン | 22 | 3.22 | 2.11 |
シクロスポリン | 22 | 1.43 | 0.94 |
イトラコナゾール | 20 | 7.13 | 4.57 |
メトトレキサート | 20 | 0.44 | 0.28 |
クリゾチニブ | 18 | 7.58 | 4.74 |
セレコキシブ | 18 | 2.3 | 1.45 |
フロセミド | 18 | 2.91 | 1.83 |
アセトアミノフェン | 17 | 2.32 | 1.44 |
シスプラチン | 16 | 0.81 | 0.5 |
抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン | 16 | 4.65 | 2.83 |
リバビリン | 15 | 0.7 | 0.42 |
ジクロフェナクナトリウム | 14 | 1.82 | 1.07 |
ゲムシタビン | 13 | 1.28 | 0.74 |
ニフェジピン | 13 | 4.9 | 2.83 |
レボフロキサシン水和物 | 13 | 1.32 | 0.76 |
アスピリン | 12 | 0.67 | 0.38 |
カルバマゼピン | 12 | 0.96 | 0.54 |
デキサメタゾン | 12 | 0.92 | 0.52 |
ここまでみてきて、プレガバリン単独でも浮腫をきたす可能性は高いことがわかりましたが、
今回は圧迫骨折後から浮腫がひどくなっていることから、プレガバリンの増量もしくは他剤との併用が原因としては疑われます。
プレガバリン用量と副作用の関係
インタビューフォームの内容は
■ 帯状疱疹後神経痛に対する使用
■ 糖尿病性末梢神経障害による疼痛への使用
いずれの場合も、1日用量が増えるに従い、副作用頻度が高くなっていることがわかります。
文献報告では
1日用量150mg~600mgで投与された7件のランダム化比較試験の結果をまとめた報告³⁾がありますが、浮腫および末梢性浮腫の用量依存性の増加があったとされています。
この表でわかるようにインタビューフォームの情報と同様に用量依存的に末梢性浮腫の頻度は高くなっています。
内訳をみると、
150 mg /日:軽度64.3%、中程度28.6%、重度7.1%
300 mg /日:軽度56.4%、中程度41%、重度2.6%
600 mg /日:軽度63.4%、中程度33%、重度1.1% のようになっています。
これらのことから、用量が増えることによって「浮腫」の副作用が発現する可能性は十分にあるということがわかりました。
もう一つ考えられる可能性としては、
ということです。
プレガバリンと他剤との併用により浮腫のリスクは上がるのか?
文献報告から
神経障害性疼痛で投与されたプレガバリンの有害事象に関連する要因を抽出するための検討が行われています⁴⁾。
2010年7月から2011年9月の間に京都府立医科大学病院のペインクリニックで治療された神経障害性疼痛患者208人を対象としています。
この中では、血清クレアチニン値の上昇、ノイロトロピンとの併用が浮腫のリスク因子として挙げられています。NSAIDSは浮腫、体重増加の因子には含まれず、ふらつきの有害事象も増加させなかったとされています。ノイロトロピンは神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン⁵⁾の中でもトラマドールと並んで第2選択薬に含まれており、使用頻度は高くなることが予想されます。
副作用報告から
「浮腫」「プレガバリン」の副作用報告の内容を一つずつみていき、浮腫と関連性がありそうな併用薬について集計してみました。
1位 NSAIDS 63例(ロキソプロフェン33例、セレコキシブ16例、ジクロフェナク12例、メロキシカム1例、エトドラク1例)
2位 カルシウム拮抗薬 32例(アムロジピン20例、ニフェジピン11例、ベニジピン1例)
3位 ACE、ARB 31例(ACE-I1例、ARB30例)
4位 トラマドール 15例
5位 ステロイド 11例(プレドニゾロン9例、デキサメタゾン2例)
6位 ノイロトロピン 8例
7位 ピオグリタゾン 1例
やはり、NSAIDSの併用例が多いように見えてしまいます。少ないですが、文献報告で出てきたノイロトロピンも6位にランクインしています。
他剤との併用により副作用リスクがあがる場合もあるようですが、文献報告ではノイロトロピンがあやしく、副作用報告の内容をみるとやはりNSAIDSとの併用があやしい。はっきりしたことは言えないですが、現時点ではノイロトロピンとの併用が浮腫の副作用を増やす可能性は否定できません。
プレガバリンの1日服用回数との関連性は?
さいごに番外編的に1日服用回数との関連性についても考えてみたいと思います。
添付文書上の用法は1日2回となっており大半は1日2回で使用されていますが、麻酔科処方の時だけ1日3回で処方されることがあります。
先に取り上げた1日用量150mg~600mgで投与された7件のランダム化比較試験の結果をまとめた報告³⁾の中では、1日2回(3件)と1日3回(4件)の服用方法が含まれており、その効果と副作用について比較されています。
効果についてはプラセボとの比較で、150mg、300mg、600mgいずれの用法でも有効性が認められています。両方のレジメンがプラセボと比較して非常に統計的に有意であったため、投薬スケジュール(1日2回と1日3回)間で違いがないことが明らかになったと締めくくられています。
副作用については、投与方法による有害事象発生率に一貫したパターンはなかったとされていますが、末梢浮腫や体重増加などの一部の有害事象は、1日3回投与群に比べて1日2回投与群での発生率が高く、めまいや眠気などの他の有害事象で、 1日2回投与群よりも1日3回投与群で高い頻度で発生しました。
■ 末梢浮腫、体重増加
1日2回 > 1日3回
■ めまい、眠気
1日3回 > 1日2回
ここまでみてくると、1日3回で投与する理由としては有効性というよりも副作用の軽減を狙っているもしくは、増量していく際にうまく1日2回に分割できなかったため等の理由が考えられます。
ちなみに神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン⁵⁾の中でプレガバリンの用法について記載している部分がありますが
「1~3回 / 日」と書いてあります。
1日3回についての根拠は書かれていませんが、しれっと1日3回の用法が載っているのです。
実際は、効果と副作用のバランスをみながら使用しているのでしょうね。
さいごに
色々書いてきましたが、今回の症例ではプレガバリン(リリカが1日3回で処方されており、副作用の傾向としては1日2回の方が浮腫の頻度が高いと考えると用法上は問題ない(※保険適応は考えない場合)かと思いますが、用量としては増量した後に浮腫が発現しているため、用量依存的な副作用であった可能性があります。また、併用薬としては、頓服で使用していたNSAIDSが1日3回の定期服用になったことも何らかの影響を与えていた可能性はあります。
今後、プレガバリン(リリカ®)が減量されたことにより浮腫が改善することを期待して経過を見守っていきたいと思います。
1)ファイザー株式会社,エーザイ株式会社:リリカ,インタビューフォーム(2020年1月改訂〔第13版〕)
2)副作用が疑われる症例報告に関する情報(https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/adr-info/suspected-adr/0005.html)
3)Freeman, Roy, Edith Durso-Decruz, and Birol Emir. 2008. “Efficacy, Safety, and Tolerability of Pregabalin Treatment for Painful Diabetic Peripheral Neuropathy: Findings from Seven Randomized, Controlled Trials across a Range of Doses.” Diabetes Care 31 (7): 1448–54.
4)Kanbayashi, Yuko, Keiko Onishi, and Toyoshi Hosokawa. 2014. “Factors Predicting Adverse Events Associated with Pregabalin Administered for Neuropathic Pain Relief.” Pain Research & Management: The Journal of the Canadian Pain Society = Journal de La Societe Canadienne Pour Le Traitement de La Douleur 19 (6): e164–67.
5)神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版,日本ペインクリニック学会,真興交易 医書出版部