柑橘類&DOAC ~くすりの飲み合わせ~

2021年4月4日

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エリキュース®(アピキサバン)ほか、いくつか薬を服用している方の家族から

「おばあちゃんがグレープフルーツ大好きで、最近ジューシーフルーツというのをよく食べるんですけど、お薬で飲み合わせが悪いものもあるって聞くので、大丈夫かなと思って電話しました」

という質問がありました。

ここで2つ疑問が。。。。

「ジューシーフルーツってなんだ?」

「アピキサバンは確かCYP3A代謝だったような。。。。」

TOMO@北の薬屋®
TOMO@北の薬屋®

ジューシーフルーツとは?

概要

ジューシーフルーツはこんなやつで、皮を含めた外観は「みかん」か「グレープフルーツ」かで言うと、グレープフルーツ寄りかなという感じで、果肉もグレープフルーツに似ていますが、オレンジのようにも見えます。ネットを眺めていると、このフルーツには名前が多くあり、作られる産地によって名前が変わるようです(元々は「河内晩柑」、美生柑、愛南ゴールドなどとも呼ばれている)。

和製グレープフルーツとも呼ばれますが、分類上は文旦(ブンタン)になるようです。
愛媛の吉田農園さんのホームページのFAQには以下のような記載があります。

Q.血圧の薬を服用していますが、河内晩柑を食べても大丈夫ですか?
A. 果肉部分は問題ありません。
河内晩柑は、和製グレープフルーツと呼ばれていますが、分類上は文旦の仲間になります。
グレープフルーツには一部の血圧降圧薬の効果を強める働きをする成分が含まれていますが、
河内晩柑の果肉部分にはその成分はほとんど含まれておりません。
ただし、外皮には含まれておりますので、外皮を使ったマーマレードや皮ごと絞ったジュースなどはお避け下さい。

グレープフルーツは、ブンタンとオレンジが自然に交配したもので、ブンタンの特徴を多く受け継いでいると言われています。
ということは、相互作用を起こすグレープフルーツの成分であるフラノクマリン類「ベルガモチン」「ジヒドロベルガモチン」を多く含んでいる可能性があるということになります。

グレープフルーツジュースと薬の相互作用について

グレープフルーツジュース(GFJ)に含まれる、「ベルガモチン(BG)」「6′,7′-ジヒドロキシベルガモチン(DHB)」などのフラノクマリン(FC)類が、小腸の薬物代謝酵素であるチトクロームP450 3A4(CYP3A4)に結合することによってその活性を長時間失活させる。薬の種類によっては、血中濃度上昇作用が3~4日程度持続することもあります。

(BGの関連成分として、ベルガプテン(BP)とベルガプトール(BT)などがある)

薬物相互作用は、使用する薬剤、個体差、摂取タイミング、摂取する量など様々なケースにより異なるため一概にどれくらいGFJをとったらだめとは回答できませんが、過去の報告で「単回GFJ200~250mL飲用時に、水飲用に比べてフェロジピン血中濃度が+70~+225%と大きな上昇がみられている」ことから、コップ1杯分くらいの摂取量で影響を受ける可能性は考えられます

ある報告では、100%GFJ10製品を用いて、200mL中に含まれるFC類(BG、DHB)の含有量を調べたものがありますが、FC類として0.4~6.4mg含まれており、製品によってばらつきはありますが、200mLのGFJで数mg~10mg程度摂取する可能性が示唆されています。目安としてはこれくらい含まれていたら確実に影響ありそうですね。

BG(mg/day) DHB(mg/day)
1.0 0.68
ND(検出されず) 0.74
1.3 2.0
1.0 1.0
1.0 1.1
1.4 ND
1.2 2.2
0.9 ND
6.4 0.4
10 1.5 1.6

別の報告では、

BG含有量/DHB含有量 1mL中 200mL中
ライム果汁(果肉) 24.13 μg / 13.21 μg 4.8 mg / 2.6 mg
グレープフルーツ果汁(果肉) 13.61 μg / 7.54 μg 2.7 mg / 1.5 mg
サワーオレンジ(果肉)      / 8.08 μg          / 1.6 mg
ライム(果皮) 1749.15 μg 349 mg
グレープフルーツ(果皮) 78.80 μg / 85.27 μg 15.8 mg
サワーオレンジ(果皮) 161.95 μg 32.4 mg
レモン(果皮) 203.44 μg 40.7 mg
河内晩柑(果皮) 308.13 μg 61.6 mg
みかんのジュース工場の動画をみたらきちんと果皮が機械でむかれていたので、グレープフルーツもしっかりむかれるのでしょう。それにしても皮に含まれるFC類の量は多いですね。

柑橘類はどれも薬との相互作用があるのか?

ここに含まれていない柑橘類もあるかもしれませんが、文献報告の中で含まれているものを抜粋しています。

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フラノクマリンが含まれる物(文旦類が多い)
北のふくろう
北のふくろう

グレープフルーツ、ブンタン(文旦)、スウィーティー(オロブランコ)、メロゴールド、晩白柚、サワーオレンジ(ダイダイ)、ザボン、金柑、タンジェリン、ライム、レモン(果皮)、ポメロ、河内晩柑(ジューシーフルーツ)、甘夏みかん

北のふくろう
北のふくろう
フラノクマリンが含まれない物

ブンタン(阿久根文旦、土佐文旦、水晶文旦)、伊予柑、マンダリン、キンカン、せとか(ミカン科)、スイートスプリング(ミカン科)、デコポン、はっさく、日向夏、ポンカン、レモン(果肉)、大橘(パール柑)

ブンタンだから必ず含まれるという訳でもなく、産地、種類によってまちまちなので、該当する製品を調べるしかなさそうです。

 

健康食品(原材料表示にGF果汁末・エキス等と記載されたもの)についても検討されていますが、16製品を分析し、11製品で検出されず検出されてもごく微量となっています。

分析対象:ゼリー飲料4種、タブレット2種、カプセル1種、顆粒3種、ドリンク3種、飴1種、グミ1種、ビスケット1種

ただし、考察部分では、グレープフルーツジュースを濃縮して製造された健康食品が販売された場合には、FC類が高濃度に含まれる可能性もあるため注意が必要という形で締めくくられています。

健康食品については内容成分量が記載されていない場合判断は難しそうです。

ジューシーフルーツについての結論

文献の中で出てきた河内晩柑は現在各地で栽培出荷されていますが、名称は産地によってさまざまで、熊本県では「ジューシーオレンジ」や「ジューシーフルーツ」、愛媛県では「愛南ゴールド」や「美生柑(みしょうかん)」、「宇和ゴールド」、「愛南ゴールド」、「灘オレンジ」と呼ばれています。

「ジューシーフルーツ=河内晩柑」ということは、果皮ではありますがかなりの量のFC類が含まれていることから、果実にもある程度の量のFC類が含まれていることが予想されます。

そのため、GFJと同様に考えていいのではないでしょうか。

【参考資料】
グレープフルーツジュースおよび健康食品中のフラノクマリン類含有量調査.食品衛生学雑誌,49(4):326-331,2008(https://doi.org/10.3358/shokueishi.49.326

Screening of Furanocoumarin Derivatives as Cytochrome P450 3A4 Inhibitors in Citrus.J Clin Pharm Ther,43(1):15-20,2018(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28749005/

アピキサバン(エリキュース®)の代謝酵素

アピキサバンの添付文書上の記載は以下のようになっています。

【主にCYP3A4/5によって代謝される】とはっきりと書かれています。
しかし、クラリスロマイシンやセント・ジョーンズ・ワートなどCYP3A4関連の相互作用でよく目にするものは記載されていますが、「グレープフルーツジュース」の記載はないことに気が付きます。

まずは、製造販売元である”ブリストル・マイヤーズ”へ問い合わせをしてみました。

回答は。。。。

「現在までにGFJとの併用による相互作用の報告がないため添付文書上は記載がありませんが、CYP3A4代謝ではあるので注意する必要があるのではないかと思いますがはっきりとは言えません。」

なんとも微妙な気持ちで終わってしまいました。

簡単に言うと、”注意はしないといけないけど、ほんとうに危険かどうかはわからない ”という感じでしょうか。

Ca拮抗薬などでは、バイオアベイラビリティ(BA:生物学的利用能)が低い場合にGFJの影響を受けやすいという報告があります。(「グレープフルーツジュースによる薬物相互作用.耳鼻咽喉科展望,42(4):430-433,1999」)

アピキサバンのBAは約50%と低いという訳でもないため、この原理から考えると影響を受けやすいとも言えません。

その他の資料でアピキサバンと食物の相互作用についての報告を探してみました。
「The Significance of Drug—Drug and Drug—Food Interactions of Oral Anticoagulation.Arrhythm Electrophysiol Rev,7(1): 55–61,2018(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5889806/?log$=activity):経口抗凝固薬の薬物間と薬物-食品間の相互作用の重要性

この中の一文を抜粋してみます。

DOAC(経口抗凝固剤)の薬物動態または薬力学に及ぼす食品の影響
理論的には、食品やハーブのCYP3A4またはP-gpの阻害剤/誘導剤はDOACの薬物動態を阻害する可能性があるが、そのような相互作用の直接的な証拠は存在しない。P-gpおよびCYP3A4の強力な誘導剤であるセントジョーンズワートは、ダビガトラン(P-gpの基質)、リバーロキサバンおよびアピキサバン(P-gpおよびCYP3A4の基質)の血漿中濃度を低下させることが予想される。ダビガトランとの併用には注意が必要であり、アピキサバンとリバーロキサバンとの併用は避けるべきである。リバーロキサバンは食物と一緒に服用するとバイオアベイラビリティーが向上するが他のDOACではない。したがって、リバローキサバンは食物と一緒に服用すべきであるが、他のDOACではその必要はない。グレープフルーツはリバーロキサバンのバイオアベイラビリティーに影響を与えることが示唆されているが、臨床研究では確認されていない。 DOACと食品や漢方薬との薬力学的相互作用の可能性については情報がない。

アピキサバンではなく、リバーロキサバンについてですが、グレープフルーツとの相互作用が示唆されているという一文は見つけることができました。ただし臨床的には確認できていないという内容は同じです。

アピキサバン(エリキュース)とGFJの相互作用の結論

アピキサバンと食物の相互作用に関する文献はいくつか探しましたがなかなか見つけることができませんでした。
しかし、CYP3A4で代謝されるということは間違いなく、GFJが影響を与えるとするとその作用が増強することが考えられるため、リスクを考えるとGFJの摂取を避けてもらうのが妥当ではないでしょうか。

まとめ

今回のように、代謝酵素から相互作用が疑われるにも関わらず代謝酵素阻害作用のあるものの記載がないものも見受けられるため、個々の薬剤毎に判断が必要となってくる場合がありそうです。

<CYP3A4で代謝される薬物だけど、GFJの記載がないもの(例:一部のみ抜粋)>

ブロモクリプチン、アミオダロン、ドネペジル、アレクチニブ、ジソピラミド、ジルチアゼム、ナルデメジン、スタリビルド配合錠、ゾニサミド、オシメルチニブ、ダロルタミド、ペマフィブラート、ペランパネル、スボレキサント、エサキセレノン

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