抗結核薬飲んでても『ピザ』と『マグロ』食べたいですよね

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はじめに

タイトルにも書きましたが、イソニアジド服用中のためチーズ、マグロをなるべく避けるように説明されている患者さんが、「食べたいな」と言うので、その時調べた内容を少しだけ共有させてもらえればと思います。

抗結核薬の使用は結核の時だけ?

抗結核薬としては、リファンピシン(商品名リファジン)、エタンブトール(商品名エサンブトール)、イソニアジド(商品名イスコチン)が代表的な薬剤として挙げられますが、結核症の適応以外にも『MAC症を含む非結核性抗酸菌症』の適応があります(イソニアジドには記載はありません)。

〈MAC症を含む非結核性抗酸菌症〉については、投与開始時期、投与期間、併用薬等について国内外の各種学会ガイドライン等、最新の情報を参考にし、投与することとされています。

肺非結核性抗酸菌(NTM)は150種類以上ありますがMycobacterium avium complex(MAC)、M. abscessusM. kansasiiの3菌種が肺感染症を起こす重要な菌種とされています。

肺MAC症では、マクロライド系抗生物質(アジスロマイシン等)、リファンピシン、エタンブトールの3剤併用が基本となってきますが、M.kansasii肺疾患ではガイドライン上、リファンピシン、エタンブトール、イソニアジドまたはマクロライドのいずれかのレジメンを推奨するとされており、イソニアジドが使用されることもあります¹⁾。

非結核性抗酸菌症患者のフォローアップ

処方内容

リファンピシン 450mg/d 分1
エタンブトール 500mg/d 分1
イソニアジド 200mg/d 分1

ほか、併用薬もありますが、今回は割愛させて頂きます。
リファンピシンは食事の影響により血中濃度が低下するとされていますが、臨床的効果としては食前・食後投与での大きな差は認められないとの報告もあり、コンプライアンスを考慮してすべて食後投与とされています。

【訴え】 ピザやマグロが食べたいな

S:ピザが食べたい気もするけど、結核の薬飲んでるからねー、マグロも。症状出たらこわいし、ねー。。。

O:イスコチン服用中 電子添文(PI)上「併用注意」

刺身やチーズは全く食べられないのか?

アルフレッサファーマのホームページのQ&Aには以下のような記載があります。

アルフレッサファーマ株式会社. 「製品情報イスコチン錠100mgの製品Q&A」. https://www.alfresa-pharma.co.jp/medical/iyaku/product/faq-detail/product_id/507/, (参照 2022-09-11)

簡単に要約してみると

摂取量の目安はなく、症状発現の摂取量にも個人差がある

ということです。

個人差があると言われてしまうと不明感が更に増してしまいますが、あきらめずにアルフレッサに問い合わせです。

チラミン

インタビューフォーム(IF)上では、チーズ摂取により頭痛、顔面紅潮、動悸などがみられた症例報告とともにチラミン含有量が掲載されています。

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これらの症例では、チラミン摂取量10mg以上で発現しているものが多く(社内資料より)、摂取量と症状の関係の一つの目安となりそうです。
但し、チラミンは醤油や味噌、納豆など発酵食品にも含まれており、チーズも種類や発酵度合いによって異なること等も考慮し、1日の合計摂取量を意識する必要がありそうです。

ヒスチジン

ヒスチジンも症例報告とともに、鮮魚、干物中のヒスチジン・ヒスタミン含量および缶詰中のヒスタミン含量がIF上に掲載されています。

ヒスチジンを多く含有する魚(マグロ、カツオ、ブリ、サバ等)の極度の大量摂取で、頭痛、ほてり、嘔吐、かゆみがみられた報告があるとされており、あくまでも『極度の大量摂取』という部分に注目したいところです。

鮮度がよほど落ちた魚でない限り、少しの量を摂取する分には問題ないのではないでしょうか?

これらの内容と医師からの返答を参考に患者さんにはこう伝えてみる

医師への確認では「少しであれば食べても大丈夫ですよ」と返答を頂いた。

このことと、調べた内容を踏まえてお話。

「先生は、『少しであれば食べても大丈夫ですよ』と言っていました。」
「通常の刺身には悪さをするヒスタミンは含まれていないので、室温に放置した刺身を大量に食べない限りは大丈夫です。」
「チーズは種類によってチラミンの量は違っていますが、少しの量なら問題ないと思います。但し、食べるときは他の発酵食品を減らす等の工夫が必要かもしれません。」

さいごに

あくまでも摂取量と症状発現に個人差のあるものであり、確定的ではないため賛否両論あるかとは思いますが、患者さんの気持ちに寄り添いながらほんの少しでも希望をかなえてあげたいものです。

たとえば、もう一つの選択肢としては、治療期間の終了の目安を伝え、それまでは我慢するか?それとも摂取チャレンジするか?患者さんに選択肢を与えてあげることも大切かもしれません。

ちなみに治療期間については、ガイドライン上で少なくとも12か月間治療することを推奨するとされており、各種報告²⁾³⁾⁴⁾でも12か月間以上の延長が必要ないとの記載や、培養陰性化後12カ月以上必要など様々な記載があります。

つまり、基本の治療期間は12か月間とされているため、12か月間ピザとマグロを我慢してもらうか?チャレンジしてもらうか?の2択の提案でしょう。

【参考資料】
1)Daley CL, et al. Treatment of Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary Disease: An Official ATS/ERS/ESCMID/IDSA Clinical Practice Guideline. Clin Infect Dis. 2020 Aug 14;71(4):e1-e36. doi: 10.1093/cid/ciaa241. Erratum in: Clin Infect Dis. 2020 Dec 31;71(11):3023. PMID: 32628747
2)Huang HL, Lu PL, Lee CH, Chong IW. Treatment of pulmonary disease caused by Mycobacterium kansasii. J Formos Med Assoc. 2020 Jun;119 Suppl 1:S51-S57. doi: 10.1016/j.jfma.2020.05.018. Epub 2020 Jun 4. PMID: 32505588.
3)Park HK, Koh WJ, Shim TS, Kwon OJ. Clinical characteristics and treatment outcomes of Mycobacterium kansasii lung disease in Korea. Yonsei Med J. 2010 Jul;51(4):552-6. doi: 10.3349/ymj.2010.51.4.552. PMID: 20499421; PMCID: PMC2880268.
4)Sauret J, Hernández-Flix S, Castro E, Hernández L, Ausina V, Coll P. Treatment of pulmonary disease caused by Mycobacterium kansasii: results of 18 vs 12 months’ chemotherapy. Tuber Lung Dis. 1995 Apr;76(2):104-8. doi: 10.1016/0962-8479(95)90550-2. PMID: 7780090.

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