飲み込みが難しい人に処方されたベルソムラ錠。粉砕か?簡易懸濁か?

2022年1月9日

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TOMO@北の薬屋®
TOMO@北の薬屋®
嚥下機能が低下して、錠剤の飲み込みが難しい患者さんに以下に示す処方が出されたらどうしますか?
ベルソムラ錠15mg 1回1錠 就寝前
「粉砕可能なら粉砕お願いします」のコメントあり

まずは「粉砕できるか?」を考えると思います。
もしデータがあればそれで良し、なければ簡易懸濁法や用事粉砕などを考えるか、他剤で錠剤が小さいものを選択するかもしれません。

今回はこの一連の流れをたどっていきたいと思います。

ベルソムラ錠(スボレキサント)は粉砕可能か?

ベルソムラ錠の粉砕

Q「粉砕投与はできますか?」

【適応外】
本剤を粉砕して投与することは、承認外の用法となります。
粉砕して投与した際の薬物動態、有効性、安全性は検討していませんので、おすすめしていません。
ベルソムラ®は、無包装状態での安定性試験において、光、湿度の影響を受けやすいことが確認されており、両面アルミ包装としています。PTPのままお渡しいただき、服用直前にPTPから取り出していただきますようお願いします。

ホームページの中ではこの記載にとどまっています。

インタビューフォームもIF記載要領2013と古い様式のままなので、粉砕可否のデータは掲載されていません。新しい様式(IF 記載要領 2018に準拠した様式)への改訂が待たれるところです。

AI-PHARMAなどのデータベースをみても、粉砕が可能というものはヒットしてきません。

難溶性物質や吸収性の悪い物質を改善する為、ホットメルトエクストルージョン(加熱溶融押出法)という結晶化成分を固体分散化(非結晶化)する技術が施されているため、粉砕や加熱などの処理後に製剤特性を失う可能性もあり、溶解性や吸収性を損なう可能性があるとされている。

まあ、一包化でも厳しいのに粉砕は当然更に厳しいですよね。

Twitterでツイートしたところ、実際に粉砕しているという貴重なお話が聞けたので掲載しておきます。

参考までに一包化に関連した文献
(スボレキサント(ベルソムラ®)錠の一包化調剤における安定性の検討)

一包化でも、乾燥剤など使用して湿度に注意しながら短期間(15日以内)での処方の場合等に限定されそうです。

ただし、錠剤の硬度変化などを気にしなければ、含量に関しては30日後まで変化なしとなっているため、保管状況に注意しながらであれば最長30日までは可能かもしれません。

ベルソムラ錠の簡易懸濁法はどうか?

MSDのホームページのQ&Aから

Q「簡易懸濁はできますか?」

【適応外】
本剤を簡易懸濁して投与することは、承認外の用法となります。
簡易懸濁にて投与した際の薬物動態、有効性、安全性は検討していませんので、おすすめしていません。

この記載にとどまっています。

「東京医療センター薬剤部」の簡易懸濁法データベースhttps://tokyo-mc.hosp.go.jp/section/simple_suspension.html )には掲載されていました。
(内服薬 経管投与ハンドブック 第3版 じほう には記載なし。2020年9月発行の第4版が最新かな)
軽く砕いてからという条件つきではありますが、用事破砕して簡易懸濁可能となっています。

結局、ベルソムラ錠の用事粉砕にしようか?簡易懸濁にしようか?

今後も処方が続いていくことを考えると、服薬時に手間をかけない方法が望まれます。
用事粉砕も簡易懸濁も服薬させる人の負担になってしまいます。そこで思い浮かんでくるのが、他剤への変更です。

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ベルソムラ錠(スボレキサント)は、オレキシン受容体拮抗薬という同効薬が少ない薬効分類に該当します。開発中のものもあるようですが、2022年1月現在薬価収載されているものは他に「デエビゴ錠(レンボレキサント)」のみとなっています。

デエビゴ錠(レンボレキサント)は粉砕可能か?

エーザイのホームページをみると、安定性に関するデータがいろいろ掲載されています。

一包化も結構安定性が高いんですね。

本剤を無包装状態にすると、温度・湿度条件下では12ヵ月間、光条件下では約4ヵ月間変化は認められませんでした。
なお、各試験条件は、インタビューフォームまたは下表をご確認ください。
添付文書の「貯法」に室温保存と記載しております(添付文書 貯法参照)。

原則として「薬剤を粉砕して投与することは、承認された用法ではありません」との文章が製薬企業より出されているため、それを前提に安定性のデータは参考にとどめる必要がありますが、以下に示すデータからは、粉砕可能と考えられます

デエビゴ錠5mg粉砕後の安定性
保存条件
①温度に対する安定性
 本剤を粉砕後、ガラス瓶に入れて密栓し、40℃で3か月保存。
▶外観変化なし
 総類縁物質(%)≦0.05
 溶出性(%)98.8→99.1
 含量(%)99.3→98.9
②湿度に対する安定性
 本剤を粉砕後、ガラス瓶にいれて開放状態とし、25℃/75%RHで3か月間保存。
▶外観変化なし
 総類縁物質(%)≦0.05
 溶出性(%)98.8→100.6
 含量(%)99.3→99.7
③光に対する安定性
 本剤を粉砕後、シャーレにいれて開放状態とし、キセノンランプ照射(総照度120万1x・hr以上、総近紫外放射エネルギー200W・h/m²以上)。
▶外観変化なし
 総類縁物質(%)≦0.05
 溶出性(%)98.8→98.3
 含量(%)99.3→101.7
「いずれの試験項目にも変化なし」という結果となっている。

参考:デエビゴ錠 5mg 粉砕後安定性資料 エーザイ株式会社

ベルソムラ錠15mgからデエビゴ錠の切り替えはどうするか?

睡眠に対する効果として、ベルソムラ錠からデエビゴ錠の切り替えの際の用量の目安になるものはあるんだろうか?

こちらは、エーザイのホームページ

【デエビゴ】 他剤からデエビゴへの切り替え方法について教えてください。
~ 回答 ~
切り替え方法を検討したデータや、他の睡眠薬との換算用量はありません。
用法・用量通りの使用をお願いします。
なお、デエビゴに切り替え後も患者様の状態を十分観察するようお願いします。

となっています。まあ、順当な回答ですよね。メーカーとしては正しい選択だと思います。

スボレキサントやレンボレキサントをPubmedで検索するとヒットする文献は非常に少ないです。その中でも、「不眠症に対するレンボレキサントとスボレキサント:系統的レビューとネットワークメタアナリシス」があったので参考までに見てみました。

Kishi T, Nomura I, Matsuda Y, Sakuma K, Okuya M, Ikuta T, Iwata N. Lemborexant vs suvorexant for insomnia: A systematic review and network meta-analysis. J Psychiatr Res. 2020 Sep;128:68-74. doi: 10.1016/j.jpsychires.2020.05.025. Epub 2020 May 28. PMID: 32531478.

異質性の認められなかった主要評価項目である1週間目の
・sTSO(主観的睡眠潜時(subjective time to sleep onset))
・sTST(主観的睡眠時間(subjective total sleep time))
・sWASO(主観的睡眠後中途覚醒時間(subjective wake after sleep onset))
から考えると、
レンボレキサント10mg > レンボレキサント5mg ≧ スボレキサント15/20mg

といった感じでしょうか(あくまで短期間での評価です)。いずれにしても、文献中でもレンボレキサントの投与は忍容性が認められた5mgから開始すべきであるとまとめられていますし、エーザイのホームページでも添付文書の用法どおりの使用が推奨されているため、5mgスタートがベストでしょう。

まとめ

今回のような「ベルソムラ錠15mg 粉砕指示」が来た場合には、特にこだわりがなければ、「デエビゴ錠5mg 粉砕指示」への処方変更提案を行うのがベストではないでしょうか。

一包化希望の患者さんにも同様のことが言える気がします。
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