腎性貧血で使う5種類のHIF-PH阻害薬!4つの違いで比べてみる
今回は、現在市場に流通している5種類のHIF-PH阻害薬の比較をしてみました。それぞれの特徴(規格数、相互作用、食事の影響、半減期)で比べています。
腎性貧血で使うHIF-PH阻害薬
現在市場に出回っているHIF-PH(低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素)阻害薬は、エベレンゾ®錠(ロキサデュスタット:アステラス製薬)を皮切りに、ダーブロック®錠(ダプロデュスタット:GSK)、バフセオ®錠(バダデュスタット:田辺三菱製薬)、エナロイ®錠(エナロデュスタット:鳥居薬品)、マスーレッド®錠(モリデュスタット:バイエル)の5種類があります。
HIF-PH阻害薬は、欧州を含め世界的には未だ発売されていない地域も多く、日本や中国などでの長期的な有効性と安全性(高血圧症、血栓塞栓症、神経内分泌腫瘍など)のデータが集積されれば、この新しいクラスの腎性貧血治療薬は世界的に拡がっていく可能性はあります。
それぞれの特徴を表にまとめてみました。
腎性貧血とは?
そもそも腎性貧血とはどんな病態か?を知らないと薬を理解するのは難しいと思います。
腎性貧血とは、腎臓においてヘモグロビン(Hb)の低下に見合った十分量のエリスロポエチン(EPO:Erythropoietin)が産生されないことによって引き起こされる貧血であり、貧血の主な原因が慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)以外に求められないものをいいます。CKDステージ3以降でみられることが多い病態です。
保存期及び透析期CKD患者の腎性貧血に対する治療薬として、腎臓で産生されるEPOと類似の構造を持つペプチド製剤であるESA(Erythropoiesis Stimulating Agent)が国内外において用いられてきましたが、ESA抵抗性貧血患者の存在も課題となっていました。
(鉄欠乏状態や慢性感染症など様々な要因でESA抵抗性貧血を招いたり、注射薬であることから医療機関や患者の負担が少なくなかった)
通常、腎臓の尿細管間質のREP(Renal EPO Producing:腎EPO産生)細胞で産生されたEPOが、骨髄の赤芽球前駆細胞に作用して造血を亢進させますが、CKD患者ではREP細胞が変化し上手くEPOが産生されない状態となっています。
HIF-PH阻害薬は、エリスロポエチン(EPO)の主要な転写因子である低酸素誘導因子(HIF:hypoxia inducible factor)の分解に関わるHIF-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)を阻害します。それにより、通常酸素濃度下でHIF-αの分解が抑制されてHIF-αが安定化し、HIF-βと結合してEPO遺伝子の転写が活性化し、その結果、内因性EPOの産生が誘導されることにより、赤血球産生が促進する仕組みです。
(図:マスーレッド錠®インタビューフォームより引用)
腎性貧血で使う5種類のHIF-PH阻害薬の違い
5種類のHIF-PH阻害薬の規格数を比べる
マスーレッド(5)>ダーブロック(4)>エベレンゾ(3)>バフセオ(2)=エナロイ(2)
規格数が多いと、有効性や忍容性に応じた用量調節がし易い反面、多数規格の採用が必要になり金銭的・医療安全的な問題が生じてきます。
その他、用法用量も「未治療」と「ESAから切替」で違うもの(エベレンゾ、ダーブロック、マスーレッド)や、「保存期」と「透析」で違うもの(ダーブロック、エナロイ、マスーレッド)などがあります。
これらをまとめて考えてみると、細かい用量調節が必要なく、シンプルに感覚的に使いやすいものは『バフセオ錠®(バダデュスタット)』ではないでしょうか。
5種類のHIF-PH阻害薬の相互作用を比べる
CKD患者、HD患者では、CKD-MBD(慢性腎臓病と骨ミネラル代謝異常)がみられ、P吸着薬が使用されることが多い。また、水分制限による便秘症なども度々認められる。また貧血に対しては、鉄剤の補充が行われることもあり、金属製剤との相互作用は無いに越したことはないですよね。
5種類のうち、リン吸着薬との相互作用がないものは、ダーブロック・バフセオ・マスーレッド、金属製剤との相互作用がないものは、ダーブロックのみとなっています。
ダーブロックはCYPの影響も少なく、併用薬剤から受ける影響が気になる場合には適しています。
5種類のHIF-PH阻害薬の食事の影響を比べる
食事の影響をほとんど受けないものは、エベレンゾ・ダーブロック・バフセオ、食事の影響を受けるものは、エナロイ・マスーレッドと大雑把に分けられます。
表をみていると、やや違和感を感じる部分がありました。エナロイもマスーレッドも食後服用によりAUC、Cmaxは低下するとあるが、エナロイは「食前または就寝前」でマスーレッドは「食後」となっている!?
メーカーさんに確認すると承認申請時の臨床試験での用法設定がそれぞれ、食前、食後であったためそのような用法になっているとのことでした。保険適応抜きにすると、一定の時間で服用して効果がみられればそれでもいいのかな?とも思えてしまう理由でした。
食事を気にせず用法設定できる方が自由度は高いので、エベレンゾ・ダーブロック・バフセオの有用性は高いと思います。
5種類のHIF-PH阻害薬の半減期(t1/2)を比べる
半減期の短い順に並べてみると、
ダーブロック < バフセオ < マスーレッド < エナロイ < エベレンゾ
となっています(ややアバウトですが)。
インタビューフォームを見てみても、「治療上有効な血中濃度」は ”該当資料なし” となっています。
半減期がどの程度、有効性と忍容性に影響を与えるかは不明ですが、薬剤ごとの特徴として覚えておくと良いかもしれません。
腎性貧血で使う5種類のHIF-PH阻害薬の安全性
RMP(医薬品リスク管理計画書)の【重要な特定されたリスク】として、
・血栓塞栓症
・高血圧
・痙攣発作
などが挙げられている。その他にも、現段階では関連性は不明なところが多いが、悪性腫瘍なども【重要な潜在的リスク】として挙げられています。その他、網膜症悪化や腫瘍進展リスクも視野に入れておく必要があります。
特に血栓症のリスクについては重要で、
①ヘモグロビン値の上昇速度が 0.5 g╱dL╱week(4週間に2.0g/dL以上)を上回らないようにする
▶もし上回ったら、減量し少量から開始
②鉄欠乏自体が血栓塞栓症のリスクであるという報告があるため,鉄欠乏にならないように管理する
▶フェリチン≧100ng/mL、TSAT≧20%
ことが大切とされています。
また、脳心血管リスク、PAD(末梢動脈疾患)リスク、DVT(深部静脈血栓症)リスクの高い患者に対しては、事前にD-dimerの測定が望ましいとされています。
一般的にロキサデュスタット(エベレンゾ)は、バダデュスタット(バフセオ)やダプロデュスタット(ダーブロック)よりもヘモグロビン(Hb)の上昇スピードは早いことが知られている。血栓症のリスクや高血圧のリスクもあがりやすくなるため、一概に良いこととは言えない。
この作用の違いには、治験時の対象患者に鉄欠乏の方が多く含まれていたことが関係していると言われている。その状態で初期投与量の設定を行ったため実臨床において鉄欠乏への対処がなされている患者にロキサデュスタットを使用するとHbのオーバーシュートを見ることになるようです。
参考文献:medicina,58(10):1647-1650,2021
さいごに
〇バフセオ
・非透析非劣性証明成功