ループ利尿薬の併用ってあり?なし?各薬剤の特徴と使い分けも含めて

2021年9月12日

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利尿薬を併用するときはどんなとき?

利尿薬はその作用部位によって系統が分けられていますので、併用する場合には、作用部位の異なる利尿薬を組み合わせて作用を増強させたり、補ったりする働きを期待して利用されることが多いです(作用部位の図参照:参考図書より拝借)。

ある尿細管のNaチャネルを阻害すると、下流の尿細管のNaチャネルによるNa再吸収が亢進してしまいます。これを防ぐために下流のNa再吸収を抑制する利尿薬を組み合わせると利尿効果が増すことが知られています(sequential nephron blockade)。

TOMO@北の薬屋®
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作用部位が同じ”ループ利尿薬”同士の併用は効果があるんでしょうか?

ループ利尿薬同士は、基本的にどの薬剤も作用機序は同じであり、バイオアベイラビリティに則った十分量を使用すれば効果は同じと言えます。

(文献報告では、トラセミドやアゾセミドが、フロセミドと比較して入院や心血管死の予後改善効果が高い傾向があったとの報告もあるため、長期予後で比較すると少しいいのかもしれません)

2012年の日本腎臓学会学術総会のモーニングセミナーの資料に、ループ利尿薬について詳しく記載されていました。

ループ利尿薬同士の併用は効果あり?

2012年の日本腎臓学会学術総会のモーニングセミナーの資料の中では以下の記載があります。
◆十分量のフロセミドで効果が無ければ、トラセミド、アゾセミドなど他のループ利尿薬の効果もない
◆違うのは、生物学的利用率
(量さえ十分投与すれば、どのループ利尿薬でも効果は同じ)

※高用量フロセミドで効果なければ、変更する根拠はない

一般名 用量※(換算比#) 経口バイオアベイラビリティ 作用発現時間(効果持続時間)
フロセミド
トラセミド
アゾセミド
40~80mg(1)
4~8mg(0.2)
60mg(1.5)
10~100%
79~91%
10%
0.1~1hr(6hr)
0.5~0.9hr(8hr)
1hr以内(12hr)

※各薬剤「症状により適宜増減」記載あり
#換算:フロセミド20mg=アゾセミド30mg=トラセミド4mg

TOMO@北の薬屋®
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ではなぜループ利尿薬を併用しようと思うのでしょうか?

はっきりとした理由はわかりませんが、考えられる理由としては2つほど考えられました。

1.それぞれの薬剤の特徴を活かしたい場合
2.上限量を超えて使いたい場合

1.それぞれの薬剤の特徴を活かしたい場合

フロセミドは作用時間が短いため即効性があり急性期に用いられ、夜間頻尿が気になる場合には、朝と昼に服用すれば夜まで持ち越すことはありません。

アゾセミドは作用時間が長く、頻尿の症状がみられにくく、症状を気にする方には使いやすい薬剤となっています。また長期予後改善効果もフロセミドに比べて高いと言われています。

トラセミドはアルドステロン拮抗作用があり血液中のKが保持されやすいため、他のループ利尿薬に比べて低K血症を起こしにくいと言われています。

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作用部位はいずれも『ヘンレループ上行脚』のNa-K-Cl共輸送体を阻害し、Naの再吸収を抑制します。

時に、これら3剤が全て併用されている症例も見かけることがあるので、それぞれの作用特性を活かした治療を行いたいのかもしれませんが真意は不明です。

2.上限量を超えて使いたい場合

参考として、フロセミドを使用するとき、腎機能低下で、これ以上投与しても効果が変わらない投与量、最大単回使用量が設定されています。

腎機能障害例ではフロセミドの尿細管分泌が低下し、用量・反応曲線が右方偏位しているため、治療には通常より高用量を必要となります。

腎機能正常 GFR<50
mL/min
GFR<20
mL/min
40-80 mg IV
80-160 mg PO
80 mg IV
160 mg PO
200 mg IV
400 mg PO

ネフローゼや心不全では臓器反応性が低くなっており、1回投与量を増やしても見合った効果が得られないことがあります。その場合には、投与頻度を増やし1日2回、さらには3回または4回投与も考慮します。

フロセミドの持続投与と複数回ボーラス投与ではどちらが有効なのか?という議論も度々なされますが、どちらも有効性は示されています。一般的にはボーラス頻回で効果がない場合に持続投与が選択されるのではないでしょうか。(持続投与の場合にはフロセミドを5~30mg/hrの速度で尿量を確認しながら調整)

この用量を超える場合に併用という選択肢が出てくることもあるのかもしれませんが、ループ利尿薬併用での有効性を検討した文献は検索してもヒットしてこず、高用量投与による有害事象が懸念されます。

高用量投与による影響についても記載されていて、予後不良因子とされています。

高用量使用の弊害
・腎機能障害(eGFR低下)
・低K血症
・高尿酸血症
・交感神経・RAA系を活性化
など

まとめ

ループ利尿薬の併用はあり?なし?の答えとしては、やはりなしかなと思います。

利尿薬の高用量投与は前章で触れた様々な「弊害」があるだけでなく、長期的な生存日数などで比較してもよい結果は得られていないことがまず理由として挙げられます。急性期の体液の減少、体重の減少、呼吸困難の改善を目的とした場合には選択肢の一つになるのかもしれませんが、長期的には『ループ利尿薬の投与量は必要最小限とすべきである』というのがガイドライン上などでも全般的な総意かと思います。

本当に利尿が必要であれば、フロセミドにアゾセミドを加えるのではなく、まずはフロセミドを最大量まで使用し遠位尿細管まで届く尿量を増やし、遠位尿細管に作用する『チアジド系利尿薬』を併用する。低K血症などの副作用が見られるようであれば、K保持性利尿薬の併用やカリウム製剤の補充を考えるのが妥当ではないでしょうか。

そして、更に利尿が必要な場合には、V2受容体拮抗薬を使用するといった形で、作用部位の異なる薬を順番に使用していくのがベストだからです。

まとめとして記載させてもらいましたが、『違うんだ!こういう理由があって併用するんだ!』等、ループ利尿薬併用について、知っている情報があれば是非教えてもらいたいです!

【参考図書】
1)村阪敏規(2020).医薬品情報のひきだし,医学書院
2)青島周一(2017).薬のデギュスタシオン,金芳堂
3)利尿薬を正しく使いこなそう 腎疾患における処方の基本.第55回日本腎臓学会学術総会モーニングセミナー,2012
4)medicina,58(10):1628-1634,2021

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