イソニアジドによる末梢神経炎。ビタミンの予防投与は必要か?

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この記事を書くきっかけとなったのはこの処方

〔 膀胱がん 〕
BCG膀胱内注入療法後の検査で以下の処方が出た方

Rp
イスコチン錠100mg  3T

リファジンカプセル150mg 4C/1×朝食後

胸部レントゲン、眼の検査後の追加処方(14日後~)
エサンブトール錠250mg 3T/1×朝食後

服用開始日から3日目
「左手に力が入らなくて、腕があがりにくくなってる。指先のしびれ、痛みもある。」との訴えあり。

その後外来受診するも担当医不在で、整形外科受診を促されて、メチコバール500 3T/3×処方となり来局された。

ここで考えたこと!

イソニアジドの末梢神経障害って教科書で習った気がするけど、実際の現場で起きることあるのかな?
予防のビタミンB6って常に使わなきゃいけなかったかな?
TOMO@北の薬屋®
TOMO@北の薬屋®

この2つの疑問が頭に浮かびました。

イソニアジド×末梢神経炎について思い出しながら書いていきたいと思います。

末梢神経障害を起こす機序

イソニアジドは、ビタミンB6群のリン酸化に必要なpyridoxal phosphokinaseを阻害すること、及びpyridoxal phosphateとキレート(isoniazid-pyridoxal hydrazone)を形成することにより、尿中への排泄が増え、体内のピリドキシン(ビタミンB6)不足状態を生じて末梢神経障害を起こすと言われています。

ここは教科書的な部分ですが、きちんとした機序があって、ビタミンB6が不足する可能性はあるということです。

イソニアジドによる末梢神経炎【実際の報告は?】

インタビューフォームでは、自発報告あるいは海外での報告のため頻度不明となっていますが、末梢神経炎の記載があります。
症状としては、四肢の異常感覚、しびれ感、知覚障害、腱反射低下、筋力低下、筋委縮などの記載があり、処置方法としてビタミンB6投与等が挙げられています。

イソニアジドの末梢神経炎に対してのビタミンB6の投与は推奨されているか?

米国疾病管理予防センター(CDC) の勧告では,「栄養障害,糖尿病,HIV 感染,腎不全, アルコール依存患者と妊婦・授乳婦のような神経障害を 起こしやすい患者に対しては,25 mg/日のピリドキシ ン投与を推奨する」としているように、危険因子(リスクファクター)のある人では予防投与が推奨されています。

結核診療ガイドラインでも,「症状が出た場合にはピリドキ シンを 100~200 mg/日投与することで改善する.すべての場合に予防的にピリドキシンを投与することは推奨しない」と記載されており、リスクファクターのない人への投与は推奨していません。

この中で、ピリドキシン投与を推奨する症例としていくつか合併症があげられていますが、高齢者もこの項目に加わることがあります。

高齢者では、摂食量も少なくなっていますし、生体機能としての腎機能の低下もみられることが多くなります。

イソニアジドの主要排泄経路は腎臓となっていますが、書籍によっては、腎機能正常者と同じとされているものもあります。

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<添付文書上の記載>
                投与間隔
50<Ccr    300mg     1日
30<Ccr≦50  300mg     1~2日
10<Ccr≦30  300mg     2日

Ccr≦10    200~300mg   2~3日

参考文献:

この文献の中では、イソニアジド投与中の血中ビタミンB6の濃度推移を調べています。

方法)

イソニアジド(INH)の投与量は、全例において 5 mg/kg とし、入院 時 INH 服用前、入院 2 週間後、4 週間後に、血中 VB6 濃度を測定しています。

結果)

全例において、両上下肢末梢の触覚低下は認められていません。(末梢神経炎の症状はみられていない)
VB6 血中濃度は、入院時には 14 例中 10 例で正常値以下であったとされており、もともとVB6血中濃度が低い方が多かったことがみてとれます。
入院後、食事摂取量が有意に増加しているのにもかかわらず、INH 内服により、血中ピリドキサール値がさらに低下する傾向も確認されています。

ここまでみてきて、場合によっては「ビタミンB6の予防投与」が必要な場合もあるのかな?と感じます。

しかし、実際、成人での INH 300 mg/日の投与では、末梢神経炎は 0.15%の発症ともいわれており、まれな副作用とされています。(リスク因子の存在によって異なるようですが、報告によって0.2~2%の発現頻度と差があります)

しかし、今回高齢者であったこと、症状が服薬後にみられたことなどからも医師へトレーシングレポートを送っています。

トレーシングレポートの内容]

〇月〇日にイスコチン、リファジンが処方となった方です。
〇月〇日起床時から手に力が入らない、手のしびれ、痛み、手があがらない等の訴えがあり内科ブロック訪問されたようですが、〇〇先生不在で看護師の方から整形外科受診をすすめられたようです。
その後整形外科受診されメチコバールを次の受診時までの分処方されています。
通常の食事がとれていればイスコチンによる末梢神経障害は考えにくいと思いますが、高齢者ということもあり症状から末梢神経障害の可能性も考えられたため勝手ながらVB6のサプリメント購入して服用してみるようにお話しています。
翌朝電話で確認したところ手のしびれは残っているとのことでしたが、VB6、B12とも服用開始している様子でした。
受診時対応よろしくお願いします。

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その後手の症状も軽減し、患者さんの希望もあり
ピドキサール錠10mg 2T/1×朝食後
で処方追加となっています。

さいごに

今回は、服薬後の発現タイミングが早かったことからも副作用の可能性は低いかもしれませんが、服薬フォローを行うことで患者さんの気持ちに寄り添った継続的なサポートを現在も行えています。

今回のような事例があったことで、患者さんも自分を頼って頻繁に電話してきてくれるようになり、信頼関係は増した気がします。

最後までお読み頂きありがとうございました!

他にも実際の事例から考えた記事をいくつか書いてあるので、お時間あればみてみてください。

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