アンチドーピング【まとめ】押さえておきたいポイント
この本の中のページに
完全に問題はないという保証は誰にもできない
という言葉が載っていますが、まさにその通りだと思います。どんなに知識があり、どんなに自信があっても100%大丈夫はあり得ないということを念頭におきたいところです。
ドーピングが禁止される理由
①スポーツの価値を損なう
②フェアプレーの精神に反する
③競技者の健康を害する
④反社会的行為
違反になるのは以下の10項目のいずれかに該当する場合です。
1.検体(尿または血液)に禁止物質が存在すること
2.禁止物質もしくは禁止方法を使用すること、またはその使用を企てること
3.検体採取を拒否、回避すること
4.競技会外検査の居場所状況をきちんと報告しないこと
5.ドーピング検査の一部を許可なく改変すること
6.禁止物質または禁止方法を所有すること
7.禁止物質もしくは禁止方法の不正取引を実行すること
8.アスリートに対して禁止物質または禁止方法を投与・使用すること
9.第三者がドーピング行為の支援や隠蔽などをすること
10.ドーピング違反をしたサポートスタッフと、資格停止中に関わること
だいたい、「そうですよね」という項目が並んでいますが、2番目の「その使用を企てること」や6番目の「所有すること」という部分は意外な部分でした。行う行わない、成功するしないに関わらず違反に該当、本人もしくはサポートスタッフが保有しているだけで違反に該当というのは注意しなくてはいけない部分かなと思います。
ただし、実際にドーピング検査以外で、その所有を判断することは難しいため、アンチ・ドーピング通報窓口からの通報によるものが多くなります。ここ数年、通報窓口からの違反摘発も増えています(WADA:Speak up / 日本スポーツ振興センター:ドーピング通報窓口)。
ドーピングの種類
【ドーピング】 これが昔から言われる一番悪い目的のドーピング
自身の競技でよい結果を出すために、自分の努力以上の力を得ようとして意図して行うドーピングのことです
【パラドーピング】 聞きなれない名前ですが、哀しいドーピングです
ライバルを失格にさせることで自分の成績を伸ばそうとする目的で行われるもの。
飲み物や食べ物に禁止物質を入れる等
< 対策 >
・手作りプレゼントは気持ちだけ受け取る
・封の開いた飲み物など中身の保証がとれていないものは摂取しない
・できるだけ自分で料理をつくる
・外での食事の際はどこで何を食べたか記録を残す(これは薬、サプリメントにも共通して言える)
・誰かと一緒に同じ食事を食べれば、証人ともう一つの検体が得られる(故意でないことが証明できる)
【うっかりドーピング(意図しないドーピング)】 日本で一番多いドーピングの種類
薬に含まれる禁止物質を知らずに服用してしまったり、喘息や花粉症の薬などを治療目的で使用していたにもかかわらずTUE申請をするのを忘れた結果ドーピング検査で陽性になってしまう場合です(意図せずうっかりしていて行ってしまうドーピング)
□ くすり
□ サプリメント
□ 漢方
□ 一般食品
うっかりドーピング
サプリメント
競技力向上を目的に栄養素以外の成分をサプリメントとして摂取することをエルゴジェニックエイドといいます。最近では、アスリートに限らず「より健康になるため」を目的に摂取することもあります。(スポーツ栄養Webより)
- その成分の作用、効果が科学的な根拠に基づいているか
- 自分が摂取する必要があるか しっかり見極めて摂取する必要があります。
表記されていない成分も含まれていることがある
禁止物質情報:独立行政法人国立健康・栄養研究所「健康食品の安全性・有効性情報の安全情報」サイト → 被害関連情報 ここでもサプリメントの情報が確認できます!
例えば、「禁止物質」で検索するとこのようにいくつか項目がでてきます。
DMAA (ジメチルアミルアミン)やDHEA (デヒドロエピアンドロステロン)など禁止物質が含まれているものが表示されてきます。
DMAA:鼻づまり治療のための鼻孔充血抑制薬。ダイエット、運動のパフォーマンス向上、筋肉増強を目的としたサプリメントとして利用されている。2010年世界WADAによって、メチルヘキサネアミンという名前で禁止物質リストに加えられている。
DHEA (デヒドロエピアンドロステロン):ステロイドホルモンであるテストステロンおよびエストラジオールの前駆体。
一般食品
この一般食品という部分があまり頭にはありませんでした。
肉あぶないですね。
天然にも存在するドーピング物質
・クレンブテロール(人工的に豚肉の肉質改善で加える国もある):気管支拡張作用+蛋白同化作用
・テストステロンなどの生体由来蛋白同化ステロイドホルモン(生肉)
1分子でも検体から検出されれば失格になる可能性があるので、こんな質問ですら答えられないという現状があります。
くすり
禁止表国際基準 これですね。日本語版ですが、英語版が原本となります。☟
スポーツファーマシストの方は毎年更新されたものがJADAから送られてくると思います。
(毎年10月公示、翌年1月より有効となる)
今まで今一つこの冊子を活用できていませんでしたが、その内容を少しでも理解できるようにしていきたいと思います。
THE CODE
THE CODE = 世界アンチ・ドーピング防止規定 (大元になっているもの)
これを元に
・「禁止表国際基準」
・「検査に関する国際基準」
・「治療目的使用に係る除外措置に関する国際基準」
・「分析機関に関する国際基準」
・「個人情報保護に関する国際基準」
の5つの国際基準が定められています。
毎年1月1日に発行される禁止表国際基準はその一つです。
禁止表国際基準で覚えておくべきword
open list(オープンリスト)
禁止表は基本的にこのオープンリストという考えに基づいています。S1~S6、S9の各項目で
「以下の物質が禁止されるが、これらに限定するものではない」
「以下の物質および類似の化学構造又は類似の生物学的効果を有する物質は禁止される」
といったように、記載の成分以外だけに禁止物質が限定されている訳ではないことが記載されています。
S7.麻薬、S8.カンナビノイドに関してはこの記載がない、【クローズドリスト】に該当します。
特定物質
医薬品として幅広く流通している物質など
すべての禁止物質は「特定物質」として扱われる。(但し、禁止物質 S1, S2, S4.4, S4.5, S6.a および禁止方法 M1, M2 および M3 は除く。 )
S6.興奮薬の中では、特定物質でない興奮薬、特定物質である興奮薬という分類がされている。
禁止表国際基準の区分
禁止される薬物(方法含む)は大きく3つに分けられています。
1.常に禁止される物質と方法
(例)S1.蛋白同化薬
2.競技会(時)に禁止される物質と方法
(例)S6.興奮薬
3.特定競技において禁止される物質
(例)P2.ベータ遮断薬
S5以前と、M1~M3の方法の部分は常に禁止される物質、方法に該当するということになります。
S0はあまり聞きなれないですが、
S0. 無承認物質
禁止表の以下のどのセクションにも対応せず、人体への治療目的使用が現在どの政府保健医療当局でも承
認されていない薬物(例えば、前臨床段階、臨床開発中、あるいは臨床開発が中止になった薬物、デザイナー
ドラッグ、動物への使用のみが承認されている物質)は常に(競技会(時)および競技会外)禁止される。
と記載されていて未知の分類ですね。
このほかに、【監視プログラム】というものが存在します。
監視プログラム
ドーピング検査の際に成分分析は行うものの、その結果をもとに失格になることはありません。
監視プログラムにある成分で、意図的なドーピングが行われていると広く疑われる場合は、禁止成分としての検討がされます。
逆に、濫用の危険がないと判断された物質は禁止リストから監視プログラムに移行することもあります。
例)2003年までカフェインは禁止物質として規定されていましたが、現在は監視プログラムに指定されています。
TUE申請
「治療目的使用に係る除外措置(Therapeutic Use Exemption:TUE)
申請をすれば、禁止物質として指定されていても使用できる場合があります。
禁止物資
S3.ベータ2作用薬
Rp1)レルベア100エリプタ 1個
1日1回 1回1吸入
Rp2)モンテルカスト錠10mg
1日1回 就寝前
Rp3)メプチンエアー10μg100吸入 1本
運動前 1回2吸入 1日2回まで
とりあえず、用法の問題点は横に置いておいてください。
これを見たときに、「運動前」?ということは、スポーツマンだね。
アンチドーピングの観点でみると、ベータ2作用薬のS3の分類に該当してるけど、大丈夫だったかな?という考えがまず頭に浮かぶと思います。
それでは、その成分について見ていきたいと思います。
商品名 | 成分名 |
レルベア® | ビランテロール 25μg
フルチカゾン 100μg(100) |
メプチンエアー® | プロカテロール 10μg |
2020年までビランテロールは常に禁止される禁止物質に該当していましたが、2021年の禁止表国際基準では禁止物質から外れています。ベータ2作用薬の中でもプロカテロールは現在も常に禁止される禁止物質に該当しています。
もしこれが国体や国際大会に出る選手であれば【TUE申請】という流れになると思いますが、この方は40歳くらいの方で地区のバドミントンの大会には出ることがあるが趣味程度に楽しんでいる方でした。まだ治療を開始して1か月程度で運動中に発作が出ることが多いことから、運動前に試験的に吸入してみましょうということで処方になったものでした。
しかし、最大投与量によっては規制を受けないベータ2作用薬もあることからそれらを選択してもよかったのかなという印象はあります。
商品名 | 成分名 |
シムビコート®
ブデホル® |
ホルモテロール 4.5μg(24時間で最大投与量54μg)
ブデソニド 160μg (24時間で最大1600μg、12時間 |
アドエア® (ディスカス) | サルメテロール 50μg(24時間で最大200μg)
フルチカゾン 100μg(100)、250μg(250) |
アドエア® (エアゾール) | サルメテロール 25μg(24時間で最大200μg)
フルチカゾン 50μg(50)、125μg(125)、250μg(250) |
レルベア® | ビランテロール 25μg(24時間で最大25μg)
フルチカゾン 100μg(100)、200μg(200) |
サルタノール® | サルブタモール 100μg(24時間で最大1600μg、12時間で800μgを超えない) |
シムビコートは維持療法以外にも「頓用吸入」が可能となっているので、これ1本でコントロールが可能となる可能性もありますし、頓用としてサルタノールを使用するという選択肢もあったと思います。
・インダカテロール(ウルティブロ、オンブレス)
・オロダテロール(スピオルト)
・テルブタリン(ブリカニール皮下注、錠、シロップ)
・トリメトキノール(イノリン吸入液、錠、シロップ)
・ヒゲナミン(呉茱萸、細辛、丁子、蓮肉、附子、南天実やイボツヅラフジなどに含まれる)
・レプロテロール(国内未承認)
特に気をつけたいベータ2作用薬
■貼付剤
■クレンブテロール(スピロペント®)
クレンブテロールは、気管支喘息などに対して気管支拡張を目的として使われることもありますが、もう一つ「腹圧性尿失禁」の適応を持っている薬物でもあります。
ベータ2作用薬で気管支に対する作用を持っていますが、他の薬剤に比べて蛋白同化作用が強いため『S1. 2その他の蛋白同化薬』に含まれます。β2受容体は骨格筋にも存在するため、蛋白同化作用による筋組織量の増加が期待されるということです。
健康食品や漢方薬にもその成分が含まれていて問題になった事例があるようですが、クレンブテロールを飼料として与えられた豚などの肉を食べたことでクレンブテロールが検出された事例もあるようなので注意が必要です。
ベータ2作用薬のネブライザーでの吸入
S8.カンナビノイド
カンナビノイド(英語: Cannabinoid)は、アサ(大麻草)に含まれる化学物質の総称です。
大麻草を乾燥したもの = マリファナ
大麻草の樹脂 = ハシシュ
主な成分) △9-テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビロール等
2018年に禁止物質から除外されたもの:カンナビジオール(CBD)⇒大麻草の成熟した茎および種子からのみ抽出されたもの
このCBD製品については、Youtubeのてろはんチャンネルで詳しく取り上げられていました。
注釈の部分で、
●カンナビジオール(CBD)は禁止されない。しかし、大麻植物から抽出されたCBD製品によってはTHCを含む可能性がある。従って、CBD製品でも禁止物質が検出されて陽性結果となる可能性があることにアスリートは注意すべきである。
と書かれている。CBDは禁止されないけど、CBD製品では一部規制がかかるから注意してねということです。抽出成分なので、どの製品が入ってなくて、どの製品が入っているというのは見分けがつかないと思いますので、とらないことが一番かと思います。
ではなぜアスリートで摂取する人がいるのか?
・思考、知覚、気分を異常に変化させ、多幸感、高揚感を期待して使用されるため禁止
・憂鬱感、被暗示性の増強、錯乱、幻覚を伴うことがある。選手が競技に対する不安や焦りから逃避する目的で嗜癖に陥る危険性がある。
といった理由で規制されています。
CBDの使用目的は、「リラックス作用」や「鎮痛作用」を期待して使用されることが多いようです。
鎮痛作用については、その効果について検証した文献がありますが、疼痛の治療におけるCBDの効果を評価した試験は少なく疼痛の治療にCBDを推奨する証拠は不十分であるため、その使用について患者に注意喚起する必要があるという内容で締めくくられています。
【参考文献】痛みの治療のためのCBD:その証拠はありますか?
Svensson CK. CBD for the treatment of pain: What is the evidence? J Am Pharm Assoc . July 2020. doi:10.1016/j.japh.2020.06.009
ネット上を「CBD」で検索するとCBDオイル、ヘンプオイル、グミ、ガムといった商品がでてきます。
CBDの所持自体は日本では合法なのか?
日本の大麻取締法では、「大麻草の成熟した茎および種子から採取された成分のみ大麻取締法から除外する」と明記されています。つまり、大麻草の成熟した茎および種子からのみ抽出された、CBD成分で作られたCBD製品は大麻取締法の対象外となり合法であると言えます。
逆にそれ以外の部位から抽出されたものは違法となります。
その判断も難しいため、個人輸入をしての使用は大変リスクが高いと言えます。
NSFインターナショナル認証を受けたCBD
ワンインチ、CBDサプリメント「CBD100」がはじめてドーピング認証を受けたようです(2022年1月現在)。今までアンチドーピング認証を受けた商品はありませんでしたので、選手が希望する場合の選択肢の一つになり得るのかもしれません。
医薬品の違反(禁止)物質を調べるツール
選手が自身で確認できる最も有名なものとしては、GlobalDRO(禁止表国際基準にもとづいた検索サイト)があげられると思いますが、最近DINX(ディーインデックス)というアプリも注目を集めています。
薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック
日本薬剤師会では、「うっかりドーピング」の防止を目的として、(公財)日本体育協会スポーツ医・科学専門委員会アンチ・ドーピング部会、茨城県薬剤師会などと協力し、「薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック」を作成しています。
毎年更新され、日本薬剤師会ホームページに掲載されています。医療用医薬品だけでなく一般用医薬品(市販薬)も商品毎に見やすく掲載されており市販薬選びの参考にもなります。
2022年版はこちら
アンチドーピング使用可能薬リスト
日本スポーツ協会が作成するリストになりますが、サイトの結構奥深くに掲載されています。
日本スポーツ協会のトップページの下の方にある「主要な事業」の中の「スポーツ医・科学研究」をクリックすると
「スポーツをする・みる・ささえる」という項目に「アンチ・ドーピング」の項目がでてきます。
これをクリックすると、
が表示されます。もう少し上の階層で表示されるとより便利になると思いますが、自分のスマホなどにあらかじめダウンロードしておき、オフラインの状態でも閲覧可能にしておくと良いと思います。
GlobalDRO(禁止表国際基準にもとづいた検索サイト)
やっぱり何がなくてもこのサイトが禁止物質の検索サイトでは挙げられると思います。
「ユーザータイプ」「競技」「購入国」「医薬品(成分名、商品名)」で検索することができます。
(ユーザータイプ=競技者、コーチ、スポーツファーマシスト、医療従事者、保護者、スポーツ関係者、その他)
ここで選択するユーザータイプがその後の検索結果、表示に影響を与えることはなさそうなので、どういう意味があるかはわかりません。
ex)スピードスケート選手が遠征疲れの影響からか帯状疱疹を発症してしまった。その後に、若干の痛みとピリピリ感が残ってしまったため再度病院を受診した際に、薬が処方になった。
Rp リリカOD錠25mg 2T/2× 朝夕食後
まずは、検索画面に該当の項目を入れていきます。
すると検索結果が表示されてきます。
投与経路にかかわらず、競技会、競技会外でも禁止されない物質であることがわかります。
PDFで出力もできますし、Eメール添付することもできるので、なるべく他の人の情報を共有するときには口頭ではなく、画面表示、文書などを用いて共有するようにしましょう。
同じような働きをする”末梢性神経障害性疼痛治療剤”である、タリージェ錠®(ミロガバリン)で検索してみると、Globaldroでは残念ながら検索結果がでてきませんでした。2019年4月発売と比較的新しい薬であることが一つの要因かもしれませんが、詳細は不明です。
DINX(ディンクス)
一般用医薬品から医療用医薬品まで、バーコード検索ができるすぐれものです。
ドーピングゼロ会では、その使用方法を解説した動画を作成しているので一度見てみてください。