歯ぎしりの薬物治療について考える【使える薬はどれか?】

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歯ぎしりってどんな病気?

歯ぎしりとは?

起きているときや寝ているときに、無意識に歯を強く噛みしめる状態を「歯ぎしり」と呼び、別名「睡眠時ブラキシズム(Sleep Bruxism:SB)」とも言われています。

強く歯をかみしめることによって、歯が欠けたり、歯並びが悪くなったり、知覚過敏、歯周病、顎関節症の原因となったり、場合によっては咀嚼筋への慢性的緊張による頭痛や肩こりなどがみられることもあるため、ただ黙って経過を観察しておくこともできない病気かなと思います。

比較的新しい日本語資料で、歯ぎしり全般について書かれたものもあったので、時間があれば見てみてください。

歯ぎしりの原因は?

くわしい原因はわかっていませんが、いくつか危険因子として挙げられています。

危険因子

■ 睡眠時無呼吸症候群(オッズ比[OR]、1.8)
■ いびきをかく人(OR、1.4)
■ 日中の眠気を感じる人(OR、1.3)
■ アルコール摂取(OR、1.8)
■ カフェイン摂取(OR 、1.4)
■ 喫煙者(OR、1.3)
■ ストレスの多い生活(OR、1.3)
■ 不安神経症あり(OR、1.3)

一般集団における睡眠時ブラキシズムの危険因子
Ohayon MM, Li KK, Guilleminault C. Risk factors for sleep bruxism in the general population. Chest. 2001 Jan;119(1):53-61. doi: 10.1378/chest.119.1.53. PMID: 11157584.

歯ぎしりの治療はどうする?

かみ合わせの調整、マウスピース(スプリント療法)など歯科で行う治療が中心となってきますが、その原因によって、心理療法や薬物療法の対象となる場合もあります。

どんな治療薬があるのか?

もともと歯ぎしりの薬物治療について考えてみようと思ったきっかけはこのツイートでした。

「歯ぎしり」は子供の歯ぎしりが気になるくらいで、普段あまり気にしたことはありませんでした。

これを見た時に、

使えるのは「セルシン」だけなのかな?
TOMO@北の薬屋®
TOMO@北の薬屋®

こう思いました。

歯ぎしりの治療の選択肢

ほかにも、セルシン®と同じベンゾジアゼピン(BZ)薬で長時間作用型の薬もあります。

抗不安作用、筋弛緩作用などで比較しても類似した医薬品はあるのにどうしてセルシンだけなんだろう?と思ったんです。

BZ薬の比較表を一部示します。

参照:
元住吉ここみクリニック:【精神科医が解説】抗不安薬(精神安定剤)の効果と副作用
ベンゾジアゼピン情報センター:ベンゾ一覧 – ジアゼパム換算表

この表をみると、作用時間がながくて、抗不安作用、筋弛緩作用、抗痙攣作用が類似しているものとして、セルシン®(ジアゼパム)とリボトリール®(クロナゼパム)があります

セルシンで効果があるとしたら、なんとなくリボトリールでも効果がある気がしませんか?

使用される歯ぎしりの治療薬

歯ぎしりの治療薬は様々なもの(アミトリプチリン、ブロモクリプチン、クロニジン、プロプラノロール、レボドパ、トリプトファン、タンドスピロン、ガバペンチン、ジアゼパム、クロナゼパムなど)が検討されてきていますが、明らかな効果を示すものは少なく、小規模なランダム化比較試験と事例報告によるものとなっています。

ランダム化比較試験(クロニジン)

対象:原発性睡眠時歯ぎしりの若年成人19人[男性9人と女性10人; 平均年齢(±SE):25.4±2.7歳]

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方法:全5泊
■最初の2泊
睡眠時歯ぎしりの慣れと診断に使用
■残りの3泊
クロナゼパム(1.0 mg)、クロニジン(0.15 mg)、またはプラセボ(すべて就寝の30分前に投与)にランダムに割り当てる。

3日目、4日目、5日目それぞれ異なる薬剤を服用する。

評価:睡眠変数、口腔運動活動変数、心臓活動変数

結果:
■レム睡眠の割合の中央値
プラセボ(16.7%)
クロナゼパム(14.7%)
クロニジン(7.1%;<0.001)

■リズミカルな咀嚼筋活動
プラセボ 12.0(1.0–41.0)
クロナゼパム 17.0(5.0–65.0)
クロニジン8.0(1.0–51.0)
プラセボと比較してリズミカルな咀嚼筋活動の相対頻度が約30%減少した。

ただし、クロニジンレスポンダーとノンレスポンダーでのその効果に違いがあることにも触れられており、抑制効果はあるがその効果には個人差がある。

Sakai T, Kato T, Yoshizawa S, Suganuma T, Takaba M, Ono Y, Yoshizawa A, Yoshida Y, Kurihara T, Ishii M, Kawana F, Kiuchi Y, Baba K. Effect of clonazepam and clonidine on primary sleep bruxism: a double-blind, crossover, placebo-controlled trial. J Sleep Res. 2017 Feb;26(1):73-83. doi: 10.1111/jsr.12442. Epub 2016 Aug 3. PMID: 27485389.

他のランダム化比較試験でも、交感神経抑制効果により、歯ぎしりをおさえたという報告があり、ある程度効果はありそうですが、副作用として低血圧もみられているため、用量と副作用のバランスが大切な薬となっています。

現在、クロニジン(カプトプリル錠®75μg)はほとんど高血圧で使用されることはないですが、クロニジン負荷試験(下垂体からの成長ホルモンの放出試験、褐色細胞腫の診断)のために病院採用品目として残っている場合があると思います。

事例報告(クロナゼパム)

ベンゾジアゼピンと筋弛緩薬は歯ぎしり関連の運動活動を低下させることが報告されています。

①プラセボと比較したクロナゼパム1mgの効果

プラセボと比較して、クロナゼパムはすべての患者のSB(睡眠時歯ぎしり)指数を有意に低下させました(平均:-42±15%)

アブストラクトのみだったので詳細は不明ですが、効果はあったようです。

Saletu A, Parapatics S, Anderer P, Matejka M, Saletu B. Controlled clinical, polysomnographic and psychometric studies on differences between sleep bruxers and controls and acute effects of clonazepam as compared with placebo. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2010 Mar;260(2):163-74. doi: 10.1007/s00406-009-0034-0. Epub 2009 Jul 15. PMID: 19603241.

②プラセボと比較したクロナゼパム1mgの効果

SB(睡眠時歯ぎしり)指数
プラセボ:9.3±6.5
クロナゼパム: 6.3±3.4

43%程度低下が認められた。

クロナゼパムは、歯ぎしり指数だけでなく、目覚めたときの気分、パフォーマンス、客観的および主観的な睡眠の質を大幅に改善する可能性があると締めくくられています。

Saletu A, Parapatics S, Saletu B, Anderer P, Prause W, Putz H, Adelbauer J, Saletu-Zyhlarz GM. On the pharmacotherapy of sleep bruxism: placebo-controlled polysomnographic and psychometric studies with clonazepam. Neuropsychobiology. 2005;51(4):214-25. doi: 10.1159/000085917. Epub 2005 May 23. PMID: 15915004.

用量としては就寝前の低用量のクロナゼパム(例えば、0.25〜0.5 mg)で十分である可能性が高く、高用量と比較して朝の眠気や不安定さのリスクが低くなるとも言われています。

クロニジンと同様に、効果と副作用のバランス、そして使用期間の検討なども大切かと思います。

結局は歯ぎしりの治療には何がいいのか?

結局、現在までに確立した治療方法はないようですが、比較試験の結果からクロニジンの有用性が高いと考えられます。クロナゼパムによる眠気の持ち越しも同様ですが、クロニジンについても血圧低下といった副作用があるため、有効性と副作用のバランスほか、合併症の有無なども合わせて考えていく必要があります。

また、薬に関連した副作用としての歯ぎしり(抗精神病薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬など)というものもあるようですので、治療薬を開始する前に服用薬剤の確認も時に必要になってくるかと思います。

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