タバコと禁煙(健康増進法一部改正)
受動喫煙対策として、2018年7月に【健康増進法の一部を改正する法律】が成立していましたが、とうとう2020年4月1日より全面施行されます。
(学校・病院・児童福祉施設等、行政機関など一部の機関については先行して、2019年7月1日から施行されています。)
最近の新コロ騒動でその情報ばかりが耳に入ってきて忘れていましたが、Twitterの投稿が気づかせてくれました。ありがたいです。
そもそも健康増進法の一部改正とはどういった内容なのか?詳しくは厚生労働省ホームページの該当箇所をみてもらえばわかると思いますが、大きな趣旨としては、
「望まない受動喫煙をなくす!」
これに尽きると思います。
改正健康増進法の概要
🔶第1種施設(学校・病院・児童福祉施設等、行政機関の庁舎など)は、敷地内禁煙
🔶第2種施設
・事務所
・工場
・ホテル
・飲食店
・旅客運送事業船舶、鉄道
・国会、裁判所
など
経過措置期間が設けられているもの(既存の経営規模の小さな飲食店)
・客席面積100m2以下
客席面積が100m2以下と数字で表しても今一つ実感が湧きませんが、約30坪、畳でいうと60畳、居住空間でいうと3LDKの広さと客席としては結構な広さがあります。席数にすると、40~45席ほどとれる計算になるようですので、チェーン店などの大規模施設を除けば大半の飲食店がここに該当するのではないでしょうか?
それぞれの施設における分煙の仕方や店頭での表示などについては、JT(日本たばこ産業株式会社)のホームページにわかりやすく掲載されているため見てみてください。( 動画もあります )
その他、施設内で喫煙可能となっている施設としては
・喫煙を主目的とするバー、スナック等
・店内で喫煙可能なたばこ販売店
・公衆喫煙所
などがあります。
内容をみてくると、関係各所に気を使いすぎて、第2種施設においては受動喫煙防止の効果がどれほどでるかわからない仕組みとなっているような気がしましたが、第1種施設は完全に禁煙になるなど、健康増進のためには良い方向に進んでいると思います。
現在、自分のまわりで以前よりは禁煙外来の患者さんが増えている印象はありますが、微増といった感じです。今後この制度の施行をきっかけとして、禁煙に取り組む人が増えればいいなと思っています。
しかし、禁煙外来で治療を受ける場合にはそれなりの金銭負担がかかります。自己負担が3割の人は、使用する薬にもよりますが、約3ヶ月(12週)の治療スケジュールで、1万3,000円~2万円程度といわれています。市販薬のニコチネルパッチを購入しても8週間で1万5,000円前後にはなるかと思いますので、ライフスタイルにあわせた治療法が選択できます。
今回は、禁煙補助薬について最低限押さえておきたいことについてまとめてみたいと思います。
禁煙補助薬にはどういったものがあるのか?
ニコチンの代替として使用される
「ニコチネルTTS」
ニコチンが結合するニコチン(α4β2) 受容体に結合して作用する
「チャンピックス®(バニレクリン)」
の2つが医療用としてはあります。
その他OTC(一般用医薬品)として、ニコチネルパッチ、ニコチネルガムなどもあります。
タバコの煙に含まれるニコチンは、体内に入ると細胞膜上のニコチン受容体
に結合する。
↓
ニコチンが脳内の報酬回路を構成するドパミンニューロンに作用すると、神
経終末からドパミンが遊離される。ドパミンは報酬回路を介して快感をもた
らす。
↓
ニコチンを慢性的に繰り返し摂取すると、ニコチンを求める強い欲求が生じるようになり、ニコチン依存に陥る。
< ニコチン依存形成までの流れ >
ニコチン受容体作用薬である「チャンピックス®(バニレクリン)」は、脳内のドパミンニューロンにあるニコチン(α4β2) 受容体に結合して、少量のドパミンを遊離させる部分アゴニスト(作動薬) として作用する ほか、ニコチンの結合部位を占拠することにより、あとから入ってくるニコチンに対して競合的アンタゴニスト(拮抗薬)としての働きもあわせもっています。
この両方の作用を持っているので、チャンピックス®(バニレクリン)を服用している状態でたばこを吸っても思っているほど充実感や快感が得られにくいという特徴があります。
禁煙補助薬のスケジュール
ニコチネルTTSの規格は、30、20、10とあり、その使用スケジュールは比較的覚えやすいものとなっています。
(引用:https://higashi-clinic.com/nosmoking.html)
4週間、2週間、2週間の間隔で規格を減量していき(合計8週間)、最大10週までとなっています。
チャンピックスについては、第1週(7日目)までは少し服用方法が煩雑ですが、第2週(8日目)以降は、同じ用量で継続となります。
(引用:ファイザーHP)
スケジュールは、健康保険の適用なのでニコチネルTTSの場合と同様で、2週、4週、8週、12週の受診で、1クール12週となっています。
2つで大きく違う部分は、ニコチネルTTSは「使用中の喫煙により循環器系等への影響が増強されることがあるので、本剤使用中は喫煙させないこと。」の記載があり、使用中の喫煙はできませんが、チャンピックス®(バニレクリン)に関しては、低用量の7日目までは喫煙が可能となっています。
※健康保険等を使った禁煙治療は、1年間で1回のチャンスです
(1年間のカウントは、服用開始日からはじまります)
実際に禁煙支援するにあたって、禁煙支援サイトなども各メーカー設置しているので利用してみてもいいかもしれません。(以下、リンク先)
起こりやすい副作用についての比較
チャンピックス®(バニレクリン)で起こりやすい副作用としては、悪心、嘔吐、不眠などが挙げられるが、ニコチネルとの比較や発現時期について少し考察してみたいと思います。
PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)の副作用報告データから
〇 悪心 (発現は4週以内が多い)
ニコチネルTTS:
7例 ROR 3.92 , CI下限 1.84 , 副作用発現日(中央値1日)
バレニクリン:
30例 ROR 3.97 , CI下限 2.75 , 副作用発現日(中央値10日)
〇 嘔吐 (発現は6週以内が多い)
ニコチネルTTS:
5例 ROR 2.96 , CI下限 1.22 , 副作用発現日(中央値5日)
バレニクリン:
25例 ROR 3.51 , CI下限 2.36 , 副作用発現日(中央値12日)
〇 不眠症(発現は8週以内が多い)
ニコチネルTTS:
4例 ROR 18.02 , CI下限 6.68 , 副作用発現日(中央値0日)
バレニクリン:
22例 ROR 24.08 , CI下限 15.67 , 副作用発現日(中央値13日)
となり、バレニクリンの方が報告件数としては多くなっている。また、発現時期としては、ニコチネルTTSが早期から副作用がみられるのに対して、バレニクリンは、10日以降と少し遅れて発現することがわかる。
ほか、副作用としては、悪夢や便秘、うつ病などの症状もある。
その他
【1】NRT(ニコチン代替療法)とVR(バニレクリン)の禁煙効果を比較した文献はいくつかありますが、その結果については様々です。
ひとつ紹介します。
Effects of Nicotine Patch vs Varenicline vs Combination Nicotine Replacement Therapy on Smoking Cessation at 26 Weeks: A Randomized Clinical Trial.
(ニコチンパッチvsバレニクリンvsニコチンパッチ+ドロップの26週間の禁煙に対する効果:RCT)
JAMA. 2016 Jan 26;315(4):371-9(PMID: 26813210)
1086例の喫煙者を
パッチ 241名
バニレクリン 424名
ニコチンドロップ+パッチ 421名
に無作為に振り分けたというもの
薬の使い方としては、
①パッチ 21mg(8週間)⇒14mg(2週間)⇒7mg(2週間)
②バニレクリン(通常の禁煙療法と同様)
③パッチ + ニコチンドロップ(2mgor4mg)
治療期間は12週間(通常の禁煙外来と同様)
呼気CO測定を行い禁煙率を算出
26週 ①22.8% ②23.6% ③26.8%
52週 ①20.8% ②19.1% ③20.2%
①<②<③という傾向はみられたが、
禁煙率の各治療方法間で有意差は認められなかった。
他の文献ではより低い禁煙率が算出されているものもある(①23%②33%③37%)が傾向としては似ている。
有意差がついたという文献もあるが、あったりなかったりなのではっきりしない。今後更に多くの症例で検討されることを期待したいと思います。
この禁煙率をみて、まず低いなと感じたことと、やはり治療終了後期間が経過してしまうと禁煙率が低下してしまうんだなと感じました。
継続的なフォローが必要だと思います。
【2】バニレクリンと他剤の併用に関することで
バレニクリンの添付文書には、
本剤は原則として、他の禁煙補助薬と併用しないこと。[本剤の
有効性及び安全性は単剤投与により確認されており、他の禁煙
補助薬と併用した際の有効性は検討されておらず、安全性につ
いても経皮吸収ニコチン製剤との併用時に副作用発現率の上昇
が認められている
との記載がある。
しかし添付文書をみてみると、
他の禁煙補助薬との併用(外国人データ)ニコチン代替療法の結果は記載がある。それによると、
対象:喫煙者22例
経皮吸収ニコチン製剤(21mg/日)とバレニクリン(1mg1日2回)を併用反復投与(ニコチン14日間反復貼付期間中3日目からバレニクリン反復投与)
おそらく安全性について検討
副作用)
経皮吸収ニコチン製剤単独投与群17例中14例(82.4%)
併用投与群22例中17例(77.3%)・経皮吸収ニコチン製剤単独投与群
嘔気7例(41.2%)、頭痛4例(23.5%)、嘔吐2例(11.8%)、浮動性めまい1例(5.9%)、消化不良1例(5.9%)及び疲労3例(17.6%)
・併用投与群
嘔気14例(63.6%)、頭痛11例(50.0%)、嘔吐7例(31.8%)、浮動性めまい7例(31.8%)、消化不良5例(22.7%)及び疲労6例(27.3%)であった
おそらくこの時点で有効性は明らかでないが、副作用が多かったため使わないようにとなったのだろう。
2014年には以下のような発表もされている。確かに副作用は多くなっているが、有効性も確認されたというものです。
バレニクリンにNRT併用の禁煙効果/JAMA(Care Net:2014/07/24記事より)
JAMA. 2014 Jul;312(2):155-61. doi: 10.1001/jama.2014.7195.
南アフリカ共和国の7施設
対象者:健常の喫煙者446例が1対1の割合で無作為化
期間:治療期間12週間、フォローアップ12週間
方法:被験者には、目標禁煙日(TQD)の2週間前からニコチンパッチまたはプラセボの貼付を開始し、TQD後12週間継続した。バレニクリンは、TQDの1週間前より投与を開始し、TQD後12週間継続し、13週間目に漸減した。
主要評価項目:第4週測定の呼気CO濃度(治療9~12週の禁煙率、すなわち治療介入最後の4週時点での完全な禁煙率を示す)。
副次評価項目:6ヵ月時点の禁煙率、9週から24週までの連続禁煙率、有害事象など
結果:併用療法は、12週時点の連続禁煙率が有意に高率であった(55.4%対40.9%、オッズ比[OR]:1.85、95%信頼区間[CI]:1.19~2.89、p=0.007)。また、24週時点(49.0%対32.6%、OR:1.98、95%CI:1.25~3.14、p=0.004)、6ヵ月時点の完全禁煙率(65.1%対46.7%、同:2.13、1.32~3.43、p=0.002)も、有意に高率だった。
(副作用)併用療法群では、悪心、睡眠障害、皮膚反応、便秘、うつ病の発生件数が多かった。ただし統計的に有意であったのは皮膚反応のみであった(14.4%対7.8%、p=0.03)。
この内容だけをみると、バニレクリンが結合していても追加でニコチンが受容体に結合する効果がある可能性も感じられます。
今後新薬や変則的な治療法も更に検討され、ピロリの除菌の二次、三次、四次療法のように失敗した場合にも再度チャレンジできるような治療方法が確立されればよいと考えています。