鉄のとりかた
鉄が不足した貧血のときには、病院でも鉄剤が処方されます。また、貧血気味と感じている方などは食事、サプリメントで鉄分補給に努めている方も多くいると思います。
服薬指導をしていても鉄剤が処方された場合には、「鉄の吸収を低下させる」情報については提供する必要があります。
①制酸剤との併用(胃腸薬)
②タンニンとの併用(コーヒー、緑茶等)
③ビタミンCとの併用
について考えてみたいと思います。
その前に鉄について少し。
鉄の分類
鉄は大きく分けて、ヘム鉄(還元型)、非ヘム鉄(非還元型)があります。鉄は還元型で吸収されるので、ヘム鉄の方が吸収率は良くなります。
ヘム鉄(還元型):動物性食品、サプリメント
非ヘム鉄(非還元型):植物性食品、医療用医薬品
医療用医薬品
フェロ・グラデュメット錠(硫酸第一鉄) | Fe2+(還元型):鉄として105mg |
インクレミンシロップ | Fe3+(非還元型):鉄として6mg/mL |
フェルムカプセル(フマル酸第一鉄)
フェロミア錠(クエン酸第一鉄) |
Fe2+(還元型):鉄として50mg |
①制酸剤との併用(胃腸薬)
これは、薬局によっては説明方法が異なってくる可能性がある部分だと感じています。
例えば、クエン酸第一鉄の添付文書の中では、
【併用注意】
鉄の吸収を阻害することがある。
in vitro試験において、pHの上昇により、難溶性の鉄重合体を形成することが報告されている。
との記載があります。
これをみて、「鉄剤と胃薬の間隔をできれば2時間くらいあけて服用してください」と説明する人もいるかもしれません。
ある人は、服薬順守率を優先して「鉄剤の吸収を低下させることもあると言われていますが、実際の治療には影響が少ないと思います」と言うかもしれません。
そこで文献をみていきたいと思います。
「鉄剤と各種制酸剤の相互作用の検討,医療薬学,2002 年 28 巻 6 号 p. 559-563」から in vitro試験
硫酸第一鉄(FS)とクエン酸第一鉄’SFC)に、いくつかの制酸剤を添加して各pHにおける高分子鉄重合体の形成率を見るというもの
どちらも制酸剤によってpHが上昇していくと鉄としての回収率が減少していますが、クエン酸第一鉄(SFC)はそれほど影響を受けなかったという結果となっています。このことから、SFCに関しては、併用による臨床上の影響が少ないと言われています。
ピロリン酸第二鉄については、制酸剤との併用に関する報告が探せませんでしたが、硫酸第一鉄と同様影響を受けると考えて服用間隔をあける必要があると考えています。
②タンニンとの併用(コーヒー、緑茶等)
個人的にはこれが一番気になっています。コーヒーを飲みながら食事をとる機会は多い、いやむしろお昼は常にコーヒーを飲みながらご飯を食べてます。タンニンが鉄の吸収を阻害するのであれば、私の食事の中の鉄は「無」に帰してしまうのでは?
まずは、添付文書上では
【併用注意】
本剤の吸収が阻害され、効果が減弱するおそれがある。
不溶性の塩を形成し、吸収が阻害されると考えられる。
との記載があります。
鉄剤と緑茶、コーヒーなどのタンニン酸が含まれた飲み物を一緒にとると、高分子鉄キレートを形成することが報告されています。いずれもin vitroではキレート形成が報告されているので影響は0(ゼロ)ではないと思いますが、臨床的には貧血の改善効果に影響がなかったとの報告が多くみられています。
緑茶の飲用は徐放性鉄剤の効果に影響を与えない. 日本医事新報 3413: 49-50, 1989.
クエン酸第一鉄ナトリウム内服に対する緑茶, ウーロン茶, コーヒーの影響. Prog Med 7: 1049-1052, 1987.
鉄欠乏性貧血に対するクエン酸第一鉄ナトリウム (フェロミア(R)) による治療効果に及ぼす緑茶飲用 の影響. 診療 と新薬 26: 1373-1378, 1989.
鉄剤内服時における緑茶飲用の妊婦貧血治療効果に対する影響について. 日産婦学誌 41: 688-694,1989.
貧血治療としての鉄剤との併用についてはほとんど影響がないという結論でよさそうですが、食べ物中の鉄とはどうでしょうか?
鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があるが、ヘム鉄の吸収に関しては食品中の成分によって影響を受けないと言われています。非ヘム鉄に関しては影響を受けるという報告もあるため注意が必要かもしれません。
コーヒーは世界各地で飲用されている嗜好性飲料であるが、特殊な栄養条件下では人間の非ヘム鉄の吸収を阻害することが知られている。
①オートミールと一緒に1杯のコーヒーを飲むと鉄の吸収率が38.3%から24.1%に減少する
(Br J Nutr. 1977 Sep;38(2):261-9.)
②一杯のコーヒーがハンバーガーからの鉄の吸収を39%阻害する
吸収率は、ドリップで5.88%⇒1.64%、インスタントで5.88%⇒0.97%に低下。コーヒー濃度を2倍にすると0.53%まで低下。
食事の1時間前にコーヒー摂取した場合影響がなかったが、1時間後に摂取した場合は同時摂取と同様に吸収が抑制された。
(コーヒーによる食物鉄吸収の抑制:Am J Clin Nutr. 1983 Mar;37(3):416-20.)
特に②の文献では、食後1時間後でも影響を受けているので、食後のコーヒーでも植物性の鉄吸収は抑えられている可能性はあります。鉄欠乏がみられやすい女性などでは注意が必要かもしれません。
③ビタミンCとの併用
最近、以下のような処方箋がきました。
Rp1)クエン酸第一鉄50mg 2錠 /1× 朝食後
Rp2) シナール配合錠 2錠 /1× 朝食後
これを見たときに、3つ疑問が湧きました。
2×の間違いではないか? シナールが必要か? シナール追加で胃腸障害は強くならないか?
で疑義照会しましたが、とりあえずそのままで様子をみることになってしまっています。
ビタミンCは還元剤としての作用があり、吸収されやすい還元型の鉄への変換を助けてくれるので吸収が促進されると言われています。しかし、還元型の2価イオンは胃の粘膜を刺激して胃腸障害の原因を引き起こすともいわれているため注意が必要です。
クエン酸第一鉄とビタミンCを併用した比較試験においては、貧血改善効果には影響がなかったという結果がでています。
(クエン酸第一鉄ナトリウムによる鉄欠乏性貧血患者の治療効果に対するアスコルビン酸の併用効果,医療薬学,2004 年 30 巻 5 号 p. 326-329)
この結果から考えると、今回のアスコルビン酸のクエン酸第一鉄への併用は意味があまりなく、胃腸虚弱がある人ではむしろ不利益になり得ると考えられました。
さいごに
鉄は、いろいろな形で存在しているため、食品中に含まれる成分との飲み合わせも様々ですが、各成分の特長を理解した上で正しく使用していく必要があります。
食事中のコーヒーについては、影響は濃度依存的ということになっていたので、少ない量を適切に摂取していきたいです。
「管理栄養士ちさと」さんのNOTE記事より(https://note.com/chisa0130/n/ne08660eea54f)
鉄鍋から溶け出す鉄はヘム鉄で吸収がいいということなので、鉄不足が気になる方は料理の際に鉄鍋など使用してみてもいいかもしれません。
コーヒー関連の情報のせてます
https://kitanokusuriya.com/post-105