便秘の薬 ~比較的あたらしいもの~
便秘薬の流れ
便秘の定義
便秘の定義といえば、「3日以上便が出てない状態」(日本内科学会定義)という認識がありました。この他にも各関連学会ではいくつか定義が提唱されています。
「毎日排便があっても残便感がある状態」
「排便が数日に1回程度に減少し、排便間隔不規則で便の水分含有量が低下している状態(硬便)を指す」
「腸管内容物の通過が遅延・停滞し、排便に困難を伴う状態」
色々難しく書いてますが、結局は出にくくなっている状態のことを指してますね。
新たな機序を持つ便秘薬
慢性便秘症の薬物治療には長年、センノシド(アローゼン®、プルゼニド®)、酸化マグネシウムなどを中心に使われてきましたが、ここ数年新たな機序を持つ便秘薬が次々と発売されています。
時系列でみてみると下のようになります。
発売 | 製品名 | 一般名 | 会社名 |
2012年11月 | アミティーザ | ルビプロストン | マイランEPD |
2018年4月 | グーフィス | エロビキシバット | 持田製薬 |
2018年8月 | リンゼス | リナクロチド | アステラス製薬 |
2018年9月 | モビコール | ポリエチレングリコール4000 マクロゴール4000 |
持田製薬 |
2018年9月 | ラグノスNF | ラクツロース | 三和化学 |
慢性便秘症診療ガイドライン
2017年10月に診療ガイドライン(慢性便秘症診療ガイドライン2017)も出されており、その中で便秘は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」とシンプルに定義されています。
「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン(リンク:Mindsガイドラインライブラリ)」はありましたが、成人のガイドラインははじめてです。様々な慢性便秘症治療薬が発売されたことによりその治療の選択肢はひろがっています。
本来、刺激性下剤は、酸化マグネシウムを含めた上記に挙げたような非刺激性下剤でコントロール可能になるまでのレスキュー(頓用)としてのみの使用が望ましいですが、刺激性下剤を中心とした便秘症治療が行われてきた現状があります。
ガイドラインの中での上記薬剤の位置づけは、アミティーザ、リンゼス、ラクツロースに加えて従来より使用されている酸化マグネシウムについても、エビデンスレベルA、推奨度1となっています。
逆に刺激性下剤である、センノシド、ビサコジル、ピコスルファートNaなどは、エビデンスレベルB、推奨度2となっています。
(※ エビデンスレベル A>B、推奨度 1:強い推奨、2:弱い推奨)
多様な服用方法の便秘薬
新しい便秘薬の中には、食前で服用しないと効果がなかったり、下痢の発現率が高くなったり、食後でないと胸やけの症状が出やすかったりと、多様な服用方法となっているため注意が必要になってきます。
今回はこの疑義照会の頻度が高くなりそうな「用法」について考えてみたいと思います。
グーフィス(エロビキシバット) | リンゼス®(リナクロチド) | アミティーザ®(ルビプロストン) |
食前 | 食前 | 食後 |
エロビキシバットは回腸末端部の上皮細胞に発現している胆汁酸トランスポーター(IBAT)を阻害し、胆汁酸の再吸収を抑制することで、大腸管腔内に流入する胆汁酸の量を増加させる。胆汁酸は、大腸管腔内に水分および電解質を分泌させ、さらに消化管運動を亢進させる為、本剤の便秘治療効果が発現する。
そのため、食事がとられなければ胆汁酸の分泌もなく、エロビキシバットはそのまま体内へ吸収されることになる。
[食事・併用薬の影響:インタビューフォームより抜粋]
Effect of single and multiple doses of elobixibat, an ileal bile acid transporter inhibitor, on chronic constipation: A randomized controlled trial.Br J Clin Pharmacol,84(10): 2393–2404,2018
(慢性便秘に対する回腸胆汁酸トランスポーター阻害剤エロビキシバットの単回および複数回投与の効果:無作為化比較試験)
この文献では、単回投与、複数回投与の両方行われていますが、朝食15分前と朝食なしで比較されたのは単回投与のみでした。投与量は2.5~20mgの4段階で行われ有効性と安全性が評価されています。
血中濃度で比較
朝食なし | 2.5mg | 5mg | 10mg | 15mg | 20mg |
Cmax(pg/mL) | 413.1 | 582.9 | 1357.5 | 1807.2 | 3165.5 |
AUC | 1662.6 | 2732.1 | 5462.6 | 7999.2 | 12839.4 |
朝食前15分 | 2.5mg | 5mg | 10mg | 15mg | 20mg |
Cmax(pg/mL) | 101.1 | 170.3 | 343.6 | 376.8 | 691.9 |
AUC | 227.4 | 633.3 | 1086.5 | 1506.8 | 2940.1 |
血中濃度で比較すると、その作用機序のとおり食事をとらないで服用した方がかなり高い血中濃度を示していることがわかります。薬自体は局所で作用する薬であるため吸収されて効果を発現するような薬ではなく、この高い血中濃度が効果に影響することはありませんが、この高い血中濃度は副作用の発現と関係してくるのかどうか?という疑問が次に湧いてきます。
副作用で比較
朝食なし (n=10) |
プラセボ | 2.5mg | 5mg | 10mg | 15mg | 20mg |
胃腸障害 | 3 | 2 | 5 | 1 | 10 | 1 |
腹部膨満感 | 1 | 0 | 2 | 0 | 2 | 1 |
下腹痛 | 1 | 1 | 2 | 1 | 3 | 0 |
下痢 | 0 | 0 | 3 | 0 | 7 | 0 |
朝食前15分 (n=10) |
プラセボ | 2.5mg | 5mg | 10mg | 15mg | 20mg |
胃腸障害 | 5 | 4 | 8 | 1 | 6 | 3 |
腹部膨満感 | 2 | 2 | 0 | 0 | 1 | 2 |
下腹痛 | 3 | 2 | 4 | 1 | 1 | 1 |
下痢 | 1 | 0 | 4 | 0 | 5 | 0 |
副作用の症状はいずれも軽度のものがほとんどでした。発生率で比較すると、胃腸障害の副作用は朝食なし群では、15mgでもっとも高く、朝食前15分群では5mgでもっとも高く用量依存的な副作用の発現はみられていません。反復投与時においても同様の結果となっています。
また全体を比較してみても、副作用の発生率にあまり差がないことがわかります。
サンプルサイズが小さいことも影響していますが、血中濃度と副作用の関連はここでは否定されています。
効果発現までの時間は?
自発排便(spontaneous bowel movement:SBM)でみていますが、エロビキシバットを服用してから最初のSBMまでの平均時間は14.8±12.6時間となっています(74歳未満:17.2±14.3時間、75歳以上:11.2±8.4時間;年齢による有意差あり)。この資料の中では、有害事象の発現率も年齢で比較していますが、74歳未満で28.2%、75歳以上で10.1%(p <0.01)と75歳以上の方で有害事象の発現率は低くなっています。
文献によっては、最初のSBMまでの時間(中央値)は5.2時間と短いと報告されているものもありますが、患者の年齢層によってその時間は異なってくることが予想されます。
まだ発売されて間もない薬であるため、疑問点は他にもいくつかあります。例えば、①文献では朝食前に服用時点が設定されていることが多いが、朝食前服用と夕食前服用ではどちらが優れているのか?②食前と食後・食直後での効果の違い など知りたいことはたくさんあります。今後こういったことも検討されていくことを期待します。
リナクロチドは、グアニル酸シクラーゼC(GC-C)受容体作動薬であり、小腸および大腸に存在するGC-C受容体を活性化することにより、腸液分泌亢進・腸管輸送能促進に加えて大腸の知覚神経抑制に働き、大腸痛覚過敏を改善し腹痛・腹部不快感を改善するとされています。
副作用として下痢が他の上皮機能変容薬よりも多く認められます。理由ははっきりとわかりませんが、「食中毒の際にエンテロトキシンがGC-C受容体を介して下痢を引き起こすのと作用機序が似ているため」とも言われています。
臨床試験において、食前投与よりも食後投与の方が下痢の副作用発現率が高かったため食前投与となっているようですが、元となる文献を残念ながら探すことができませんでした。
II.慢性便秘症の治療 各論(新規薬剤について).日本大腸肛門病学会雑誌,72 (10) ,2019(https://doi.org/10.3862/jcoloproctology.72.600)
便秘治療薬―リナクロチド―.耳鼻咽喉科展望,61(5),2018(https://doi.org/10.11453/orltokyo.61.5_288)
下痢の発現時期は?
PMDAの報告の中では、「下痢」のROR 4.25,発現日0~4日の比較的早期での報告があります。
7日以内に約半数以上が発症している¹⁾という報告もあれば、全体の6割程度が2週間以内に発症が報告された²⁾というものもあります。
2)Two Randomized Trials of Linaclotide for Chronic Constipation.N Engl J Med,365(6):527-36,2011
これらをみると、投与初期(0~2週)の間は特に下痢症状の発現に注意しながら経過をみていく必要がありそうです。
ルビプロストンは、クロライドイオンチャネルに対する作用で腸管腔内に塩化イオンに富んだ液体を分泌し、便の小腸内輸送を改善することで効果を示します。
副作用として悪心が他の上皮機能変容薬よりも多く認められます。その作用機序は明らかにされていませんが、胃排出時間の遅延に対するルビプロストンの影響が報告されているため、こういった作用も消化不良からくる悪心につながっていると考えられています。
「便秘治療のためのルビプロストンの臨床研究における悪心の分析」についての報告のなかで、悪心の発現時期について「5日以内にみられた」と記載されています。
海外での臨床試験において、この悪心が、食前投与に比べて食後投与においてその発現頻度が低下したことから、食後での服用が強く推奨されています。
II.慢性便秘症の治療 各論(新規薬剤について).日本大腸肛門病学会雑誌,72 (10) ,2019(https://doi.org/10.3862/jcoloproctology.72.600)
これについても元文献を探すことができませんでした。
まとめ
間違った用法で服用することにより十分な効果が得られなかったり、予想外の副作用がみられたりすることもあるため、しっかり服用方法を把握して処方監査を行っていきましょう。